第6話 人形遣い
~恋色マスタースパーク~
ミスティアの指さした方向に向けて黙々と進む俺。だが、神社は見えて来ない。因みに今は魔法使いの衣装を着ている。この姿だと箒に乗らないと飛べないようだ。さすが魔法使いと言った所か。
(まだかよ……)
正直言ってうんざりしている。コスプレしながら空を飛ぶなんて知り合いに見られたら死にたくなるだろう。
「ん?」
その時、目の前に2体の人形が現れた。かわいらしい小さな人形だ。でも、何故か空を飛んでいるしまず、どうやって動いているかわからない。
「……」
その場で止まり観察する。その瞬間、右側の人形が槍で攻撃してきた。
「のわっ!」
箒をコントロールし何とか回避。そして、左側の人形がレーザーを放ってきた。
(マジかよ!)
急いでスペルカードを取り出し宣言。
「魔符『ミルキーウェイ』!」
たくさんの星弾がレーザーとぶつかり合い、相殺。何とかなったようだ。
「貴女……一体?」
安心していると上から声が聞こえた。そちらを向くとさきほどの人形を肩に乗せた少女がいた。服は青いスカートに頭は金髪。赤いカチューシャも付けている。
「どうして魔理沙のスぺカを?」
音楽は右耳の方しか流れていないから聞き取れた。
「俺だって知りたい」
ため息を吐きつつ、ぼやく。この少女の口ぶりではさっき使ったスペルは誰かの技らしい。
「怪しいわ」
「まぁ、そうなるわな」
ゲームとかやっていたらわかる。こういう場合は何を言っても――。
「貴女の正体、教えなさい!」
スペルカードを俺に見せつけながらそう言った少女。
(戦いは避けられないんだよな……)
「はいはい」
軽く返事をしスペルカードを取り出す。
「スペルカードは3枚。被弾するか全てブレイクされた方の負け。それでいい?」
「ああ、いいぞ」
ミスティアの話通り、最初にスペルの枚数を決めるようだ。俺の場合、コスプレした時にスペルを宣言した方がいいのか、しない方がいいのかわからない。
(どうするかな~?)
「行くわよ!」
俺が悩んでいると向こうは大量の人形を出した。武器を持っていたり盾を持っていたりするが見た目はとてもかわいい。これから俺を襲うと考えなければ――。人形たちは弾を出す。レーザーを撃つ。武器を持って突っ込んでくると言ったように別々の動きを見せた。
「くそっ!」
何とか回避するが被弾するのも時間の問題だろう。さっきから掠っている。急いで手に持っていたスペルを宣言した。
「恋符『ノンディレクショナルレーザー』!」
箒の周りからいくつかのレーザーが放出した。人形たちは次々と墜落して行く。
「やっぱり、魔理沙のスペルね。蒼符『博愛の仏蘭西人形』」
少女がスペルを宣言しまた人形が現れる。そしてそれぞれから1つの弾が出る。
(は?)
スペルカードは確か必殺技のような物だ。だが、弾は少ない。不審に思っているといきなり弾が増えた。
「うおっ!?」
吃驚して躱すタイミングが遅れた。弾が掠ってところどころ服が破ける。
「これで終わりよ! 闇符『霧の倫敦人形』!」
また人形が増える。さっきのスペルとは違い最初から大量の弾が俺を襲う。密度が濃くて回避できない。
「魔符『スターダストレヴァリエ』!」
困った時のスペル。また星弾が出て弾を相殺する。その時、とうとう曲が終わった。
~人形裁判 ~ 人の形弄びし少女 ~
またコスチュームチェンジ。今度はどこかで見た事がある青いスカート。傍には2体の人形。頭には赤いカチューシャ。
(これって……)
恐る恐る少女を見る。
「な、なんで私の服を……?」
(これはまずい!)
「さらばっ!」
嫌な予感がしたので試合を放棄して神社を目指す。
「あ! 待ちなさい!」
少女もついてくる。
「待つかよ!」
そんな怖い顔されては逃げなくても良くても逃げ出す。
「なんで服が変わったのよ!」
「俺だって知りたいわ!」
大声で会話しながら逃げる。
「くっ!」
だが、目の前にまた大量の人形たちが現れる。
(人形?)
そうだ。俺の傍にずっといるこの2体の人形。もしかしたら俺も操れる。そう思った。適当に指を動かす。あの少女もこうやって指を動かして操っていたはず。
「!」
人形は俺の指の動きに合わせて動く。そのまま少女の人形に突っ込ませる。
「嘘!?」
後ろから少女の叫び声が聞こえた。向こうは俺には操れないと思ったらしい。
「いっけ~!」
2体の人形はそれぞれからレーザーを放出。人形の壁を蹴散らす。俺はその隙に突破する。
「もう! どうなってるのよ!?」
(俺だって聞きたい……)
人形なんて何年間、触ってないだろう。どうして操れたのかわからない。
「こうなったら! 咒詛『魔彩光の上海人形』!」
少女が最後のスペルを宣言した。今度は小さな弾と大きな弾が入り乱れる。こんなの躱せるはずがない。
(待てよ?)
確かあの少女は大量の人形を戦わせていた。なら、俺にも出来るかもしれない。
「おらっ!」
思い立ったら吉日。大量の人形を展開させる。
「! バカっ!?」
人形を見た瞬間、少女が叫んだ。
(え?)
小さな弾が1体の人形に当たる。その刹那――爆発。人形の中に火薬が仕込まれていたようだ。更に近くにいた人形も誘爆しどんどん俺の方に爆発の連鎖が近づいてくる。
「ちょ、ちょっと!」
急いでその場を離れようとしたが時すでに遅し。爆風にまきこまれ吹き飛ばされる。
「うおおおおおおお!!!」
景色がすごいスピードで変わる。
「ぐふっ……」
そして、墜落。幸いにもすぐに地面に叩き付けられたわけではないので衝撃はそれほどでもなかった。
「いてて……」
体を動かす度に痛みが走る。
「まだ私のスペルは終わってないわ!」
その束の間、少女が追いついた。
(どうする?)
自問する。こちらは体が痛み、動けない。向こうはスペルの途中。明らかにこちらが不利すぎる。
(――――ッ! 曲が……)
悩んでいる所で曲が終わってしまった。
~オリエンタルダークフライト~
今まで聞いた事のない曲だ。でも、コスプレは見た事がある。あの白黒の魔法使いの衣装だ。確認しているともう弾がすぐそこまで来ていた。躱そうにも近すぎて間に合わない。
「どうにでもなれ!?」
適当にスペルを取り出し、宣言。
「魔砲『ファイナルスパーク』!!!」
本能的に懐から正八角形の小さな箱を出して少女に向ける。すると、箱から極太レーザーが吐き出される。レーザーは弾を飲み込み、掻き消し、吹き飛ばしながら少女に向けて突き進む。
「ちょ……」
少女は何か言おうとしたがそれを邪魔するようにレーザーが直撃した。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
レーザーの放出を止める。その頃には息遣いが荒くなっていた。
(くそ……意識が……)
疲れが一気に俺を襲う。さっきのレーザーで体力を激しく消費したのだろう。そのまま地面に倒れて気絶した。
第7話 博麗神社
「お~い! 行くよ~!」
「うん!」
ここは近所の公園。悟が蹴ったサッカーボールを足で止める。
「ほい」
そして、蹴り返す。こんな感じでボール蹴りをしてよく遊んだ。
(これって……)
夢。それはわかっている。きっと、過去の思い出だろう。だが、いつかはわからない。ありふれた日常だからだ。体つきからして5歳より下だろう。悟は俺の幼馴染なのだ。この頃からよく遊んでいた。
「うわっ!?」
急に強い風が俺と悟を襲う。悟は追い風だったからいいが俺は向かい風。驚いて目を瞑ってしまった。
(あれ?)
ここで俺は不思議に思う。いつもなら俺が公園の出口側で悟が入り口側。この公園は何故か入り口と出口がバラバラだ。閑話休題。でも、今の立ち位置は俺が入り口側で悟が出口側。
(何だ? この違和感。)
偶然もあるだろう。たまたま、いつもと配置が違うと言う事もある。
(違う!)
この違和感は立ち位置に対してではない。その時、子供の俺はゆっくり目を開けた。
「え?」
目の前に広がっていたのはいつもの風景ではなく大自然だった。これが俺が感じていた違和感。
こんな体験をしているのに何も覚えてないのだ。
「……」
ここはどこだ?
まず初めにそう思った。今は布団の中。どこかの家らしい。レーザーを放出し力尽きた所までは覚えている。
(あの夢は?)
そこだ。あんな記憶あるはずない。目を開けたら大自然って不自然にも程がある。
「起きなきゃ……」
まだ体はだるいが布団から出て俺は襖を開けた。
「「ん?」」
部屋を出たところで少女と出会った。服装は紅白の巫女服。でも、腋の部分がばっくりと開いている。
(この服は……)
紫と戦った時にお世話になったコスプレだ。この服がなかったら俺はどうなっていたかわからない。
「目が覚めたようね」
「あ、ああ」
巫女が確認を取って来たので答える。
「ちょっと来なさい」
名前も知らない巫女は俺を睨んで廊下を歩き始める。
(なんだ?)
戸惑いながらついて行く事にする。
「「あ……」」
巫女について行った先にあの人形遣いがいた。急いでイヤホンを耳に装着しようとする。
「あれ?」
右腕にあるはずのPSPが入っているホルスターがなかった。
「お前の探し物はこれか?」
人形遣いの隣。またもや少女がいた。今度は白と黒の魔法使いのような服だ。
(これはさっきのか)
どうやら俺のコスプレはこの幻想郷に住んでいる人の衣装らしい。ミスティアにも紫にもなったから確信が持てる。
「それだ!」
魔法使いが持っていたのは俺のホルスターだった。
「返せ!」
「嫌だ!」
(何故に!?)
所有者は俺のはずなのに何故か断られた。
「説明してくれるまで返さねーよ」
魔法使いがそう言った。
「説明?」
一体、俺は何の説明をすればいいのだろう。
「お前とアリス――そこの人形遣いの戦いを見ててな。何故、私のスペルが使えたか説明しろって事だよ!」
「と、言うより勝手に貴女が神社に落ちてきたんだけどね」
「神社?」
「そう、ここは博麗神社よ」
どうやら、俺は人形の爆発で運よく目的地まで飛ばされたようだ。
「どうして魔理沙の格好をしていたのかも説明して頂戴」
魔理沙とはきっとこの魔法使いの名前だろう。
「……わかったよ」
俺は今まであった事を掻い摘んで話す。
「じゃあ、私にもなった事が?」
巫女が聞いてきた。
「今の所はお前とお前が1回」
巫女とアリスを指さしながら言う。
「そして……魔理沙が3回? だったかな?」
「な、なんでそんなに私の回数が多いんだ!?」
(俺だって聞きたいわ。)
「まぁ、いいじゃない。あ、私は博麗 霊夢よ。この神社の巫女をしているわ」
「私はアリス・マーガトロイド」
「そして、お前のお気に入りの霧雨 魔理沙だぜ!」
「気に入ってるわけじゃねーよ……俺は音無 響だ。よろしく、霊夢、アリス、魔理沙」
これで全員の自己紹介が終わった。
「音無……響?」
だが、霊夢が驚いた顔をして聞いてきた。
「ああ、そうだ」
「……まぁ、いいわ。貴方はこれからどうするの?」
「これから?」
「そう、外の世界に帰り「帰りたい!!!」
思わず叫んでしまった。
「そこまでか?」
魔理沙が怪訝な顔をして聞いてきた。
「そりゃそうだろう! ここに来てから戦い三昧だ! 俺の場合、PSPを使わなきゃ戦えない。その度にコスプレをするなんてもう嫌なんだ!」
男なのにスカートとか巫女服とかメイド服とかゴスロリとか……もう嫌だ。心の底からそう思う。
「PSPとコスプレが何かわからないけど貴方の気持ちはよくわかったわ。準備してくるからちょっと待ってて」
霊夢はそう言って部屋を出て行った。何故か寂しそうな顔をして――。
「?」
理由がわからず首を傾げる。
「しかし、よく紫と藍の弾幕から逃げられたな」
「運がよかったんだ」
それを言うなら全ての戦いがそうだ。俺はここまで運だけで生きて来られたようなものだ。
「準備出来たわよ」
本当に少しで霊夢が帰って来た。
「?」
「どうしたの?」
「いや、何でも」
もう霊夢の顔は寂しそうではない。俺の見間違いだったようだ。
「やっと、家に帰れる」
それより幻想の世界から現実の世界に帰れることを喜ぼう。
「着いてきて」
「おう!」
素直に霊夢の後を追う。
「ここを通るだけ?」
「そう、この鳥居を超えれば帰れるわ。結界を緩めたの」
(結界?)
「そうか。ありがと」
結界は何かわからないが俺は帰れるようだ。
「じゃあ、短い間だったけど世話になった」
「ほら、早く帰りなさい。結界が閉まるわ」
霊夢は興味がなさそうに言った。
「よかったらまた遊びに来いよ!」
魔理沙は笑顔だった。そんな易々とは来れないだろう。
「じゃあね」
アリスはもうどうでもよさそうだ。
「じゃあな」
もう一度、別れの挨拶をして鳥居を目指して歩き出す。
(これで帰れる)
能力は消えないだろうが曲を聞かなければいい話。聞けないのは少し残念だが仕方あるまい。そして、俺は鳥居を超えた。
「「「「……」」」」
後ろを振り返る。霊夢、アリス、魔理沙の3人がいる。
横を見る。鳥居を超えているのがわかる。
前を見る。大自然が広がっている。
「嘘だああああああああああああ!!!!!!」
俺は絶叫して地面に崩れ落ちた。まだ幻想の世界とはお別れ出来そうにないらしい。
第8話 人里へ
「紫……だと?」
「きっと、そうよ」
ここは博麗神社の縁側。外界に帰れなかった理由を霊夢に聞いたらあのスキマ妖怪のせいだと言われた。
「貴方の話を聞くに相当、気に入ってるから帰したくないようね」
「じゃあ、俺は?」
「帰れないわね」
一番、受け入れたくない現実をアリスが呟いた。
「これで響も幻想の仲間入りだな!」
魔理沙が笑顔で俺に言い放つ。
「はぁ~……」
どうしてこうなってしまったのだろう。
「で、どうやって過ごすの?」
「過ごすって?」
霊夢の言っている意味がわからず、聞き返す。
「仕事よ、仕事。暮らすんだったらお金が必要でしょ?」
確かに霊夢の言うとおりだ。家も探さなくちゃいけない。
「どうすっかな~」
「一先ず、人里に行ったら?」
そこでアリスからアドバイスを貰う。
「人里?」
「そう。人間たちが暮らしてる所よ。あそこなら仕事も家も見つかるでしょう」
「案内してくれ」
早速、向かう事にした。
「即答ね」
霊夢が呆れたように言った。
「きっと、安全なんだろ? その人里って」
「基本的にはな」
俺の質問に魔理沙が答える。
「基本的には?」
「ほら! 私が連れてってやるから表に出ろ」
俺は聞き返したが魔理沙は無視し箒を持って部屋を出る。
「乗れよ」
「あ、ああ……」
きちんとホルスターを右腕に装備し箒に跨ろうとした。
「いや、待てよ?」
「どうした?」
だが、魔理沙は何かを思いついたらしい。
「お前、飛べるじゃん。自分で飛べよ」
「はぁ!?」
「そのからくりを使えばいいだろ?」
「……わかったよ」
仕方なく、PSPを起動。右耳にイヤホンを差し曲を流す。
~亡き王女の為のセプテット~
服が輝き、ピンクのワンピースに早変わり。背中からも漆黒の翼が生える。これはミスティアの時のコスプレだ。
「ん? ……ぎゃああああああああ!!!」
(熱い! 体中が熱い!)
突然、体から煙が上がったと思ったら全身に凄まじいほどの激痛と熱を感じた。耐え切れず地面を転がる。
「お、おい! 大丈夫か!?」
魔理沙の声が聞こえたが目を閉じて気を失った。
「うぅ~……」
あれから3時間。まだ頭がガンガンと痛む。
「バカね」
「うるせ~……」
霊夢の言葉を力なく押しのける。
「まさかレミリアになるとは思わなくてな! ゴメン! ゴメン!」
笑顔で魔理沙が謝ってきた。
「笑いごとじゃねーよ!」
飛び起きて叫ぶ。魔理沙はまた笑顔で謝ってきた。
「……で、俺に何が起きたんだ?」
自分自身でよく理解していなかった。
「さっきお前が変身したのはレミリア・スカーレットといって吸血鬼だ」
ああ、なるほど。
「日光か」
「そう言う事だ」
吸血鬼は日光に弱い。少しでも当たれば命に関わるほどだ。
(それを全身に……)
よく生きていたなと思う。
「まぁ、すぐその紐を引っこ抜いたら何ともなかったけどな!」
どうやら俺は魔理沙のおかげで助かったようだ。元凶も同一人物だが。
「どう? もう動けそう?」
「ああ、何とかな……」
アリスも心配しているらしい。
「じゃあ、改めて行くか!」
「箒に乗らせろよ?」
「わかってるぜ! さすがにもうあんな事は言わないって!」
魔理沙も少しは罪悪感を感じてるようで快く承諾した。
「ありがとな。皆」
突然、やってきた俺にここまで親切にしてくれる。感謝の気持ちが溢れた。
「何言ってるの。放っておいて死なれたら後味が悪いからよ」
「面白そうだからだぜ!」
「何となくね」
「そうか……魔理沙、行くぞ」
「おう!」
もう別れの挨拶なんていらない。どうせ帰れないんだ。また会えるだろう。そのまま立ち上がり、縁側から神社を出た。魔理沙も俺の後に続く。
「準備はいいか?」
「ああ、いつでも来い!」
霊夢とアリスの目の前で箒に跨る俺と魔理沙。
「全速力で行くぜ!」
「え? いや、そこまで急ぐ必要はああああああああああああ!!!」
嫌な予感がしたが時すでに遅し。息が出来ないほどの速さで箒は飛び、人里目指して加速を始める。
「……」
「どうしたの?」
「何でもないわ」
霊夢はジッとすごいスピードで人里へ向かう魔理沙と響の姿を見ていた。何故か寂しそうな表情を浮かべて。
「そう」
でも、私はそれ以上、何も聞かない。聞いたところですいすいと躱されるだけ。
「いい天気ね」
「そうね」
だから、こんな他愛もない話を続ける。
「はぁ……はぁ……」
「どうした?」
「てめーのせいだ!」
箒に乗る事、3分。俺と魔理沙は門の前にいた。正直、自分で飛べばよかった。
「は? 私、何かしたか?」
「自覚なしか」
呆れて何も言えなくなる。魔理沙はあの風圧は何ともなかったようだし仕方ないとも思える。
「だから何だよ! 教えろよ! お前のお気に入りだろ!」
「関係ないわ!? それにお気に入りでもないわ!?」
PSPは全てランダム。たまたまだ。
「ちぇ……なら、私は行くぞ?」
「はぁ!? どうして! ここまで来たなら最後まで付き合ってくれよ! 人里で一体、何すりゃいいんだよ!」
「寺子屋に慧音って奴がいるからそいつに頼れよな。あいつなら面倒見てくれるはずだぜ?」
面倒だからその慧音って奴に俺を押し付けるようだ。
「寺子屋の場所は?」
「そんなもん、人に聞け。私は行くから」
「お、おい!」
俺の言葉を無視して魔理沙は飛んで行ってしまった。
「何だよ……全く」
仕方ないので俺は門を潜った。
「待て」
潜れなかった。剣を腰に差した門番に止められてしまった。
「お前、どこから来た?」
「どこって……」
外の世界からと言うべきなのか博麗神社からと言うべきなのか。
「答えられないのか?」
「いや、そう言う事じゃ――」
「問答無用!!!」
門番はそう言うと剣を鞘から抜いた。
(これは……あれだな。うん)
俺はそっとホルスターからイヤホンを伸ばし、耳に装着する。
「うおおおお!!!」
剣を構えながら突っ込んできた。それに合わせてPSPのスリープモードを解除。更に○ボタンをプッシュする。
~ネイティブフェイス~
頭にはクリクリっとした丸い目が付いた帽子。服は紫色のスカートと中には白い長そでのシャツ。向こうは剣で攻撃してくるはず。だが、それに対して俺は素手。このコスプレにどのような能力があるかまだわからない。咄嗟に俺は右腕を動かした。
「!!!」
門番の振り降ろした剣は俺の体に触れていない。
(やっぱりか……)
おかしいと思った。これまで色々な弾幕を躱してきた。もちろん、掠った事もある。それに高い場所から落ちた事もある。それなのに――。
――どうしてPSPは壊れなかったのか?
いくら掠ったと言ってもPSPはただの機械。傷一つ、入っていないのはおかしすぎる。それだけではない。いくら使っていてもバッテリー切れを起こさないのだ。
紫は言っていた。俺は能力持ちだと。きっと、このPSPが関係しているはずだ。能力持ちだから俺を会社に入れたがっていた。
では、PSPが壊れてしまったら? 俺の能力は宝の持ち腐れとなってしまうはずだ。
もう1つ。紫は1度、このPSPに触れている。その時に細工でもしたのだろう。PSPの境界を弄って――。
「何でそんな物で……それにその恰好は何だ?」
「俺だって聞きたいぜ」
そう、俺は門番の剣をPSPで受け止めていた。
第9話 襲撃
今の状況を説明しよう。門番は俺目掛けて剣を振り降ろしている。俺は右腕に装備しているPSPでそれを防いでいる。簡単に説明するとこんな感じだ。
「くっ……」
門番が悔しそうにした。
(どうしよう?)
この後の事を考えていなかった。コスプレした事により力も増したはずだ。でも、この門番は普通の人間。攻撃してしまったら怪我をするかもしれない。戦いにくい。
「ん?」
ふと、何かを感じて地面を見た。
(もしかして?)
「じゃあ、俺は行かせてもらうな」
「は? うわっ!?」
門番の目の前に小さな弾を1つだけ出現させる。それだけで門番は尻餅をついた。
「じゃあな~!」
その場でジャンプ。そして地面に潜る。あの時、俺は地面が少し柔らかくなったのに気付いたのだ。試しに行動してみるのも悪くない事がわかった瞬間だ。
(急いで人里に行かなきゃ……)
このままコスプレが変わってしまったら大地に生き埋めになってしまう。早速、人里目指して、俺は泳ぎ始めた。
「な、何なんだ?」
その頃、門番は放心状態だった。弾を発射してきたと思ったら地面に潜ったのだ。無理もない。
「は、早く、慧音さんに報告をしなくては……」
そう呟くと門番は走り始めた。この人里に侵入者がいる事を伝えるために――。
「意外と賑わってるな」
上手く人里に入った俺は適当に歩いていた。目指すのは寺子屋。場所は先ほど、傘を持った緑の髪に紅いチェックのスカートを着た女性に聞いたのだ。
「ここか?」
周りの家より一回り大きな建物を目の前にして呟いた。中からは子供たちの元気な声が聞こえている。間違いないだろう。
「ん? 誰だ? そこにいるのは?」
後ろから声が聞こえ、振り返る。そこには四角くて青い帽子に青いロングスカートを着た髪の長い女性がいた。
「いや~慧音って人を探しててここにいるって聞いて」
「私が慧音だが? 君は?」
「俺は音無響。よろしく」
「うむ。よろしく頼む。改めて自己紹介しよう。私は上白沢慧音だ」
お互い、握手する。
「それで? 私に用とは?」
「ああ、実は――」
昨日、幻想郷に来た外来人である事。帰れなかった事。仕事と家を探している事を慧音に話した。
「なるほどな。すまないがその事については授業が終わってからでいいか? 子供たちを待たせているのでな。すぐ終わるから中で待っててくれ」
「わかった」
慧音の後に続き寺子屋に入る俺。部屋まで案内され慧音は授業に戻って行った。
「そうだ」
PSPの様子を見てみる。ホルスターには切傷が付いてしまったがPSPには何もなかったように傷がない。やはり、紫がPSPの境界を弄って頑丈に。更にバッテリー切れを起こさないようにしたようだ。
「まぁ、いいか。便利だし……」
俺は気長に慧音を待つ事にした。
「待たせた」
しばらくすると慧音が帰って来た。
「いや、大丈夫。それより裁縫道具あるか?」
「裁縫道具? あるにはあるが……何を縫うんだ?」
「これ」
ホルスターを見せる。
「何かあったのか?」
「大した事じゃねーよ。話しながら縫いたいから貸してくれないか?」
「わかった。取ってくる」
また慧音は部屋を出て行った。
「これでいいか?」
少しして裁縫道具を持って戻って来た。
「さんきゅ」
裁縫道具を受け取り早速、縫い始める。
「上手いな」
「慣れているからな」
手元に注意しつつ、答える。
「なるほど……では、話し合おうか」
「ああ、頼む」
「正直言って、人里にはもうほとんど働き口はないのだ」
「は!? 痛って!!!」
驚いてしまい、針が指に刺さる。
「大丈夫か!?」
「あ、ああ。で、その理由は?」
「人里は来る者は多いが去る者が少ないのだ。人里の外には妖怪がいるからな。それゆえ、働き口がなくなるのも速い。残っているとしたら……」
そこで慧音が黙り込む。
「残ってるんだろ? どんな仕事だ?」
「万屋」
手を止めて、慧音を見る。
「も、もしかして……」
嫌な予感というものは良く当たる。この予感も例外ではない。
「依頼は主に妖怪退治だ」
「無理だな」
倒せるかもしれないがコスプレなどしたくない気持ちの方が大きい。
「だろう? だから、働き口がないのだ」
「じゃあ、どうすれ……」
そこで外から大きな音が聞こえた。
「な、なんだ!? 痛って!!!」
もう少しで血が出る所だった。
「妖怪だ!」
慧音は立ち上がって部屋を出て行こうとする。
「よ、妖怪って! この人里は安全じゃないのか!?」
「基本的にはだ! 知能が低い妖怪がたまに襲ってくるのだ!」
そう言い残して出て行った。
「マジかよ……」
せっかく、コスプレしなくても暮らしていけそうだったのに。
「仕方ねー」
ホルスターも丁度、縫い終わった。様子だけでも見よう。そう思い俺も寺子屋を後にした。
「大丈夫そうじゃんか」
人里はもう落ち着いていた。
「なぁ?」
「ん? なんだい?」
近くを歩いていたおじさんに状況を聞いた。まだ完全に追い払ったわけではなく人がいない所へ誘導しただけらしい。
「さすが慧音さんだ」
「へ? 慧音が?」
「そうだ」
「そうか……さんきゅ」
お礼を言い、歩き始めた。確かに襲撃を受けた傷が建物に残っている。
(慧音ってすげー奴だったんだ)
「よ、妖怪だああああ!!!」
感心していると叫び声が聞こえた。
「またか!?」
声がした方に向かう。角を曲がると犬のような姿をした生物が暴れている。きっとあれが妖怪だろう。周りを見ると皆、焦っているようだ。慧音は今、戦っている最中。助けに来れない。
「きゃあ!」
逃げ惑う人の中で運悪く、1人の子どもが転んでしまう。嫌な予感がしてイヤホンを耳に装着する。犬の妖怪の目はギロッとその子供を捕えた。
(まずい!!!)
「お、お前!」
その時、横から聞き覚えのある声が聞こえた。ちらっと見るとあの門番だった。だが、今はあの子供だ。PSPに手を伸ばしボタンを押し、走り出す。
~妖怪の山 ~ Mysterious Mountain ~
上は白いシャツに下は黒いスカート。背中には漆黒の翼。あの紫から逃げた時のコスプレだ。変身と同時に低空飛行を始める。どんどんスピードを上げ、人と人の間を通り抜ける。その間にも妖怪は子供を食べようと大きく口を開けている。
(間に合ええええええええ!!!)
俺は子供に手を伸ばした。
第10話 恥ずかしい衣装を纏って……
「はぁ……はぁ……」
空を飛んでいる俺の腕の中にはむせび泣く子供。本当にギリギリだった。下を見ると妖怪が悔しそうにこちらを睨んでいる。妖怪から離れた場所に子供を降ろした。
「あ、ありがと……」
「さっさと逃げろ」
「う、うん!」
子供は返事をすると走って離れて行った。俺の周りには誰もいない。あの妖怪以外は。
(戦うしかないか……)
慧音は別の妖怪の相手をしている。このままではこの妖怪のせいでけが人が出てしまう。
「行くぞ。妖怪」
俺が声をかけた途端、妖怪は突進してきた。かなりのスピードだ。だが――。
「今の俺にはついて来れないぜ」
一瞬にして妖怪の後ろに回り込む。このコスプレのおかげだ。
「うがああああああ!!!」
俺の挑発を理解したようで奇声を上げる妖怪。その時、曲が終わり次の曲へ移行する。
~プレインエイジア~
服が輝き、四角くて青い帽子に青いロングスカート。慧音のコスプレだ。
「!!?」
妖怪は俺が変身した事に驚いているようで目を見開いた。
「さぁ、来いよ」
またもや、挑発。
「……」
妖怪は警戒して近づいてこようとしなかった。慧音は人里を守っている。きっと、妖怪の中でも噂になっているのだろう。言語があるとは思えないが。
「こっちから行くぞ! 産霊『ファーストピラミッド』!」
大声でスペルを宣言すると弾幕が展開され、妖怪目掛けて進み始める。妖怪は上手く弾と弾の間を潜り抜け、回避。
「チッ!」
弾は消えず、家にぶつかりそうになり強制的に消す。その間に妖怪が近づいてきた。
「くそっ!」
空を飛んで躱すがこの妖怪も飛べるようでしつこく追い回して来る。
(どうする?)
下手に弾幕を張れば周りに被害が及ぶ。このまま慧音が来るまで逃げ続けなければいけないのだろうか。
(いや、駄目だ!)
戦う事を決心する。理由はこんな恥ずかしい衣装を纏いながら逃げるなんて嫌だからだ。方向転換。
「!?」
妖怪は俺が向かって来るとは思っていなかったらしく驚いていた。そして、俺は妖怪の腕を掴み、ホールド。逃げられないようにする。
「これでも食らえ!!!」
思いっきり頭を引き、勢いよく妖怪の脳天に振り降ろす。
――そう、頭突きだ。
妖怪は白目を向いて気絶。こちらにも衝撃と痛みが襲うと思ったが不思議な事に何もなかった。慧音は相当、石頭らしい。
「……ふぅ~」
これで一安心だ。その時――
「がっ……」
背中に激痛が走る。痛みで集中力が切れ、頭から落ちる。
(な、なんだ?)
訳が分からない。一体、何が起きたのだろう?
「!!!」
わかった。妖怪だ。俺の目に映る妖怪は口の周りにべっとりと血を付けて笑っていた。もう一匹いたのだ。
「くそ……」
どうやら、腰を深く抉られたようだ。痛みと出血で目の前が霞む。
(まずい……)
内心では焦っているが体が言う事を聞かない。そこで次の曲に変わる。
~月まで届け、不死の煙~
服が光り、下は赤いもんぺにサスペンダーが付いているズボンに上は白いシャツ。髪には白っぽいリボンが付いている。
「?」
変身した途端、背中の痛みが消えた。
「いって!?」
そこで地面に叩き付けられる。衝撃も痛みも強かったがすぐになくなる。
「?」
訳が分からない。背中に触れてみても血が出ていないし傷そのものもなくなっている。
「なんなんだ?」
声に出してみるが答えは帰って来ない。
「がるる……」
上から俺の腰を食った妖怪が降りてくる。
「……やるしかねーな」
周りを見ると何匹もいる。俺が倒した妖怪と同じように犬のような姿をしていた。
(群れ?)
どうやらこの妖怪たちは群れで行動しているらしい。そこまで考えていると1匹の妖怪がこちらに向かって来る。
「くそっ!?」
反射的に右ストレートを放つ。
「なっ!?」「!!!」
俺も妖怪も驚く。何故なら――
俺の右手が炎を纏っているからだ。
「キャウン……」
右手はそのまま妖怪の頬を殴り、吹っ飛ばす。吹き飛ばされた妖怪はそのままぐったりと横たわった。どうやら気絶したようだ。
「……」
俺は右手を見つめる。確かに炎。でも、熱くないし火傷もしていないようだ。
(このコスプレの能力か?)
傷が治ったのもこの炎もきっと、このコスプレの能力だと思うが確信はない。周りの妖怪が吠え始める。仲間が倒された事に興奮しているのだろう。
「来いよ。妖怪共」
俺の言葉を聞いた妖怪たちが一気に突っ込んでくる。幸い、ここは人里の端っこ。誰も住民はいない。
「らっしゃ!!!」
体から炎を噴出し、駆け出す。このコスプレは体全体から炎を出す事が出来るようだ。炎を飛ばす。妖怪は一度、足を止める。その隙に炎で作った翼で飛ぶ。
「食らえ!」
手から炎の塊を数発、放った。炎の塊は的確に妖怪にヒットする。
「くっ!?」
だが、数が多すぎる。俺は背後に回った妖怪に蹴飛ばされた。その先にはまた妖怪。
「くそっ!?」
瞬時に足から炎を放出し、勢いを殺す。
「「がうっ!」」
目の前にいた妖怪と先ほど俺を蹴飛ばした妖怪が前後から突っ込んでくる。
「させるかよ!」
空中で両腕を大きく広げ、手のひらを2匹の妖怪に向け、炎を放出した。炎は妖怪に直撃し吹き飛ばす。その間に3匹の妖怪が襲って来た。
(きりがねー!)
「ふんっ!?」
今度は全方向に炎を飛ばす。こうしなければ対処出来ないのだ。妖怪たちを吹き飛ばし着地。その時、曲が終わり、次の曲が再生される。
~ティアオイエツォン(withered leaf)~
今度は赤いワンピースに緑の帽子。そして2本に枝分かれした尻尾と猫耳が現れた。
(これって橙?)
マヨヒガにいたあの猫だ。正直言って心配。
「がうっ!?」
それでも妖怪は待ってくれない。吠えながら突っ込んでくる。
「どうにでもなれ!」
姿勢を低くし妖怪に向かって一気に跳躍する。
「「!?」」
気付いた時には妖怪の横にいた。
予想外に早くて俺も妖怪も吃驚する。子供を助けた時のコスプレよりは遅いが十分だ。
(行ける!)
空中で方向転換し妖怪の腹に蹴りを入れ、近くにいた2~3匹の妖怪もろとも吹き飛ばす。
「次!」
地面に着地した瞬間に走り出す。妖怪たちは戸惑っているようだ。普通の人間が変身し自分たちを圧倒している事に。
こちらからしたらチャンスだ。
目の前にいた妖怪を右手の爪で引っ掻き、右にいた妖怪を引っ掻いた反動を利用し左手で裏拳を放つ。
一度、着地。それから左にいた妖怪の顎に左アッパー。そのまま体ごと後ろに回転、後ろにいた妖怪の脳天に逆さの状態で蹴りを入れた。そう、サマーソルトキックだ。
≪!!?≫
妖怪たちは驚いていた。俺の戦い方が変わり過ぎているからだ。
(このまま一気に方を付ける!)
俺は姿勢を低くし足に力を込めた。
第11話 妖怪の特性
姿勢を低くし妖怪たちに突っ込もうとした矢先、曲が終わってしまう。
(早すぎるだろっ!?)
橙の曲は短かったらしい。すぐに次の曲が再生された。
~広有射怪鳥事 ~ Till When? ~
服が輝き、今度は緑のワンピース。腰と背中に1本ずつ鞘を装備。頭には黒いリボンが飾られていた。近くに白い幽霊みたいなのが浮いている。
「これって……剣?」
鞘は片方が長く、片方が短い。
「――ッ!」
妖怪たちは目を見開く。そりゃそうだろう。変身したあげく剣まで持っているのだ。
(斬るつもりはないけど……)
素人がこんな危ない物を振り回したら自分にも危害が及んでしまう。
「ばうっ!?」
一匹の妖怪が突っ込んできた。殺れる前に殺ると言った感じか。
「くっ!?」
剣を2本、所持しているから動きにくい。すぐに追いつかれてしまった。
(くそったれ!)
何の考えもなしに腰の剣を鞘から抜き、横に振った。わかる人にはわかるだろう。居合いだ。
「――ッ?!」
妖怪は無残にも真っ二つに斬られてしまった。俺の手によって。
「あ……」
顔に返り血がべっとりと付着する。冷や汗が滝のように出た。
(俺が……やったのか?)
目の前に佇む妖怪の亡骸。俺が持っている剣から血が垂れる。
「あ……ああ……」
俺が殺ったのだ。自分を守るためとはいえ、自らの手でこの妖怪を殺めたのだ。
手に力が入らず、剣を落としてしまう。
「っ!」
チャンスと思ったのか妖怪が俺を目指して走り始める。
(に、逃げなきゃ……)
頭ではわかっているはずだが、足が動かない。
一匹の妖怪が大きく口を開ける。このままでは噛み殺されてしまう。先ほどとは別の汗が流れた。
「危ない!!!」
その時、上から大声が聞こえ炎の弾が目の前の妖怪を吹き飛ばす。風圧でイヤホンが抜けてしまい、部屋着である半そで、短パンに戻った。
「大丈夫か!?」
呆然としていると上から一人の少女が降りて来て、放心状態の俺の肩を揺さぶる。
「あ、ああ……」
「ったく……妖怪が攻めて来たら家の中に入ってなきゃダメだろ!」
(この服は……)
下は赤いもんぺにサスペンダーが付いているズボンに上は白いシャツ。髪には白っぽいリボンが付いている。そう、さっきのコスプレだ。
「ん?」
少女が辺りを見渡し、目を細める。目線の先には俺が倒した妖怪たちがいた。
「お前の他に誰かいたのか?」
「いや……いないけど」
「むぅ? じゃあ、誰が……? まぁ、いいか」
自己解決したらしい少女はこちらに向き直る。
「ここは私が何とかするから早く逃げろ」
「え?」
「だから早く逃げろって!」
叫んで俺に背を向ける。
(逃げろ?)
嫌だと思った。炎を出せるからって女の子に戦わせたくない。戦わせるのだったら俺も一緒に戦いたい。そう思った。そう思っているのだがさっきの事で体が言う事を聞かない。
「来い! 妖怪!」
少女が両手に炎を灯し、挑発する。妖怪たちは一瞬、戸惑っていたが一斉に少女に向かって走り出す。
「へっ! それじゃあ、私には勝てないよ!」
そう言って少女は背中から炎の翼を出し、飛翔する。
「これでも食らえっ!!!」
少女の手から大きな炎の弾を噴出し妖怪たちを燃やす。
(す、スゲー)
何も出来ずにただ目の前に景色を見ていた俺の前で妖怪は黒こげになって地面に倒れた。
「ふぅ~」
少女がため息を吐きながら降りて来る。
「まだいたのか? 逃げろって言ったのに」
呆れた顔で少女が呟く。しかし、俺は何も答えない。少女の後ろでとんでもない事が起きているからだ。
バリ……バリバリ……
倒れている妖怪たちの背中が割れているのだ。そして、生き残った妖怪が牙を使って皮を剥いでいる。
(なんだ? あれ?)
例えるなら脱皮か。
(脱皮?)
「まずい!!!」
急いでイヤホンを装着する。
「お、おい!? どうした?」
「後ろだ! バカッ!?」
急に俺が行動を起こし始めたので少女が慌てていた。忠告するがその時には妖怪たちが抜け殻から飛び出し少女に襲いかかる。
「なっ!?」
少女も気付いたがすでに遅かった。もう妖怪がそこまで来ているのだ。
(間に合え!)
PSPを操作し音楽を再生した。
~春色小径 ~ Colorful Path ~
服が輝き、霊夢の巫女服になった。本能的に懐からスペルカードを取り出す。
「夢符『封魔陣』!」
俺の体から放出された衝撃波によって妖怪たちが吹き飛ばされた。だが、まだ向かって来る。
(もう1枚!)
「霊符『夢想封印』!!!」
今度は八つの弾が出現し的確に妖怪にヒットした。追跡弾らしい。
「……」
少女は信じられない物を見るかのように俺を見ていた。
「あ……体が」
気付いた時には自由に動けるようになっている。
「お、お前! 今、何をした?」
少女が詰め寄ってくる。
「普通にスペルを使っただけだけど……」
「そのスペルは霊夢のじゃないか! しかも、服装まで……一体、どうなってるんだ!?」
(俺だって知りたいよ)
「そう言う能力らしいぞ?」
そう言いつつスぺルカードを取り出す。
「え?」
少女が俺の行動を見て首を傾げる。
「霊符『夢想封印 散』!」
「キャウンっ!?」
少女の後ろに迫っていた妖怪たちを弾が薙ぎ払った。
「今はこっちが優先だろ?」
「……それもそうだな」
少女が俺に背を向ける。それと同時に俺も少女に背を向けた。
「藤原 妹紅」
「え?」
「私の名前だ。お前は?」
「……音無 響」
「そうか、よろしく。響」
「おう」
妹紅は俺の背中を、俺は妹紅の背中を守る。
(この方が落ち着いて戦えるな)
妹紅は強い。戦いを見ていてわかった。俺も足手まといにならないように気を付けなければならない。
「この妖怪たちの特性がわかった」
妖怪が攻めて来ない事を確認し口にする。
「特性?」
「ああ、あいつらは倒されれば倒されるほど強くなる」
さっき俺が真っ二つにした妖怪も復活している。それに妹紅に突進した妖怪たちはぐっとスピードが上っていたのだ。
「じゃあ、どうすれば……」
「復活しない方法がある……多分」
「どういう事だ?」
「復活するには他の妖怪が手伝わないといけないらしい。だから一度の攻撃で全ての妖怪を倒すしかない」
ここまで話して妖怪が突っ込んできた。こちらの曲も終わり、次が再生される。
~東方妖々夢 ~ Ancient Temple ~
緑のワンピース。腰と背中に一本ずつ鞘が差してあり、頭には黒いリボン。近くに白い幽霊がいる。
(またこれか!)
倒しても復活するとわかっていても剣で攻撃する気になれない。仕方なく剣を抜かずに鞘に入ったままの状態で妖怪を殴る。
「厳しいな……」
妹紅も炎を飛ばし妖怪を寄せ付けない。
「てか、普通に無理」
「全く、諦めるのが早すぎるだろ? あ、また服が変わった」
「こういう能力なんでね。もっと人がいれば何とかなるんだけど……」
「……よし!」
妹紅は数秒間考えた後、右手の平を上に向けた。
(は?)
「いっけ!」
するとどでかい炎の柱が飛び出す。
「うわっ!?」
吃驚して声を上げてしまった。白い幽霊もビクッと震える。
「これでよし」
「何したんだよ」
妖怪を殴りながら聞く。
「まぁ、見てなって」
「……」
意味が分からず、肩を竦めると幽霊も動く。
(……)
試しに幽霊に『前に行け』と命令してみた。
「おお!」
すると幽霊は指示通り、前に進み妖怪にぶつかる。俺にも少し衝撃が来た。
(このコスプレか……)
幽霊は俺の意のままに操れて、幽霊と神経が少しだけ繋がっているようだ。
(これなら……)
ある事を思いつき、口元が緩んでしまった。
第12話 助っ人
「はぁ……はぁ……」
鞘を地面に突き刺して何とか倒れないようにしている俺。
「もう疲れたのか?」
あれから5分。まだまだ妹紅は大丈夫なようだ。
「色々あるんだよ」
PSPの画面を見るとこの曲は後1分半。この曲は音質が良いのを選んでいると長い動画しかなかったのだ。
「ん? あの半霊はどこ行った?」
妹紅が俺の近くに白い幽霊がいない事に気付く。
「ああ、少しお使いを頼んでる」
俺の疲労はその半霊のせいでもある。コントロールが難しく精神的に参っているのだ。
「倒れるなよ」
「わかってるって!」
半分叫んで返事をすると、とうとう曲が終わった。
~フラワリングナイト~
服が輝き、メイド服になる。
(ミスティアに会う前になった服だな)
だが、あの時は戦っておらず、どういう能力があるかわからない。
(武器は……ナイフ?)
スカートの中からたくさんナイフが出てきた。どこに入っていたのかと思うぐらいに。
「来たぞ!」
「え?」
妹紅の言う通り、妖怪が一斉に襲い掛かって来た。
「くそっ!」
脅かすためにナイフを投擲する。すると百発百中で妖怪の額に刺さった。
「へ?」
「無闇に殺すなって……更に強くなるだろ」
「わざとじゃねーよ!」
体が勝手に動いたと言っても過言ではない。
「……に、しても本当に強くなったな」
俺の言葉を無視して妹紅が言う。
「ああ。正直言ってきつい」
見ていると妹紅の炎でも一発じゃ倒れなくなっていた。それにさっき殺した妖怪たちも復活している。
(このままじゃ……)
妖怪たちは強くなり、俺たちは疲労で動けなくなる。バッドエンドだ。
「どうするよ?」
悩んだ末、妹紅に相談する。
「どうするもこうするもないだろ」
妹紅もどうすればいいかわからないようだ。
「とにかく耐えるしかないな」
「ああ、耐えるしかない」
お互いの意見が合った所で妖怪たちがまた襲い掛かって来た。
(ああ……何かイライラする)
そのせいだろう。
「「死にさらせやああああ!!!」」
俺と妹紅は叫んでいた。いつまでも終わらない戦いにまいっているのだ。妹紅も同じらしく今までで一番でかい炎を出している。対する俺はありったけのナイフを投げて妖怪たちを串刺しにしていた。
「「あ……」」
気付いた時には妖怪たちが復活し、更に強くなっていた。
「ああ! また強くなった! どうすんだよ!?」
「お前だってたくさん殺したじゃないか!!!」
戦闘中にも関わらず妹紅と睨み合う。
「「――ッ!」」
その隙を突かれた。突然、妖怪が足元の地面から飛び出したのだ。
不意を突かれた俺は腹にタックルをもらう。
「ぐふっ……」
ガードも出来ずに吹き飛ばされ地面に叩き付けられた。一瞬、意識を手放しかけるが何とか持ちこたえる。
(も、妹紅は……)
痛む体に鞭を打って何とか立ち上がった。
「っ!?」
俺は信じられない光景を目の当たりにした。そのせいで体が硬直する。
「だ、大丈夫か!? 響!」
心配そうに声をかけてくる妹紅。
「い、いや……お前の方こそ……」
「え? 私は大丈夫だ。くっ……さすがに大丈夫じゃないわ」
「バカ野郎!? 致命傷じゃねーか!!!」
俺が大声を上げるのも仕方ない。
妹紅の腰半分が食い千切られていたのだから。
「これぐらい日常茶飯事だって……」
口ではこうだが顔は青ざめ、表情は苦しそうだ。
「早く止血しないと!」
見渡すが傷口を押さえられるような物はなかった。このままでは死んでしまう。
「落ち着けって……ほら、始まった」
(始まった?)
妹紅に手招きされて近づいてみると傷口が塞がっていく。
(これってあの時と……)
俺も妹紅のコスプレをしている時に傷口が塞がった。
「ど、どうなって……」
「後で説明してやるよっと!」
妹紅が迫ってきた妖怪を炎で吹き飛ばす。驚きすぎて気付きもしなかった。
「さて……そろそろか」
完全に傷が塞がった妹紅は立ち上がりつつ、呟いた。
「そろそろって?」
「来た!」
「妹紅!!! 大丈夫か!!!」
空の上から大声が聞こえた。そちらの方を見ると見覚えのあるシルエットが浮いていた。
「け、慧音!?」
予想外の人物の登場に驚愕する。その瞬間に曲が終わり、次が再生。
~おてんば恋娘~
服は青いスカートで頭には緑のリボンが飾られている。それに背中には結晶の羽があった。
「ど、どうしてここに!?」
体の変化より慧音の方が優先。上空にいる彼女に向かって叫んだ。
「む?」
どうやら、向こうも俺に気付いたらしい。目を細めてゆっくり降下して来る。
妖怪たちは慧音の登場に戸惑い、攻撃して来る気配がない。
「すごいだろ?」
慧音が降りてくる間に妹紅が笑いかけて来た。
「そうだ! どうやって慧音を?」
「あの時の火柱だよ。あれが緊急時のサインなんだ」
「な、なるほど……」
種明かしも終わった所で慧音が着陸した。
「……チルノじゃない? でも、恰好は同じだな」
その途端に顎に手を当てながら俺の姿を凝視する。
「え、えっと……慧音? もしかして俺の事、わかってない?」
「え? 会った事があったか? すまない。覚えていないようだ」
能力のおかげで服装が変わっているから俺だと気付いてないらしい。
「……音無 響だよ」
仕方なく名乗る。
「……何を言っているんだ? 響は今、私の家にいるはずだし、そんな恰好していない」
「だから――」
「来るぞ!!」
妹紅の声で妖怪の方を見ると2匹、突っ込んで来ている。
「慧音、避けろ! 凍符『パーフェクトフリーズ』!」
即座にスペルカードを取り出し、宣言した。慧音は目を見開いて離れて行く。その間に体から大量の弾幕をばら撒き、妖怪たちに突進する。
だが、直線的な弾幕なので妖怪たちは軽々と躱した。
「くっ……」
悔しくて奥歯を噛んだその時、動いていた弾が全て止まった。
「――ッ!?」
走っていた妖怪たちは急ブレーキをかけたが自ら弾に衝突し、凍ってしまった。
「おお! 上手いぞ、響! これで復活出来ない!」
妹紅に褒められたがそれどころではなかった。
「何がどうなって……」
「お前が発動したスペルだろ? どうしてそんなに驚いているんだ?」
「い、いや……この姿になるのは初めてだったからどんな技かわからないんだよ」
俺の発言を聞いた妹紅は呆れた目を俺に向けた。
「ん? 妹紅。今、『響』と言わなかったか?」
「そうだけど? なぁ、響?」
「あ、ああ……」
「じゃ、じゃあ……本当に響なのか?」
「そうだってば……」
慧音が信じられない物を見たような顔をしている。
「そんな事より――」
その後は言葉ではなく指を指して示した。せっかく凍らせた妖怪を他の妖怪が氷を噛み砕いている。復活するのも時間の問題だ。
「まぁ、そうだな。あれから処理しよう」
「……後で説明してもらう」
「了解!」
~人形裁判 ~ 人の形弄びし少女~
曲が変わり、アリスの姿になる。
「行け!」
すぐさま人形を操り、噛み砕いている妖怪を追い払う。
「妹紅! 妖怪について教えてくれ!」
「おう! 響、頼んだ!」
「頼まれた!」
アリスのスペルは広範囲に広がる弾幕が多かったはずだ。ここで使ってしまったら人里の方にも流れ弾が飛んで行くかもしれない。
(ならば――)
人形をスカートの中から召喚し、妖怪たちを襲う。
「きっつ……」
アリスとの戦闘では2体しか操っていなかったが今は100を超える人形だ。集中しなければいけない。
だからだろう――。
「バウッ!?」
後ろから近づく妖怪に気付けなかった。
「しまっ――」
妹紅たちも気付き、こちらに向かっているが間に合わない。人形も同様だ。
(くそっ!?)
口の中で悪態をついた。妖怪が口を大きく開ける。背筋にゾクリと悪寒が走った。
「霊符『夢想封印』」
真上で聞いた事のある声が響き、8つの弾が妖怪を吹き飛ばした。
「全く、どんな呼び出し方してるのよ。吃驚したじゃない」
思わず、ニヤケてしまった。
「仕方ないだろ? あれしか方法はなかったんだからよ」
上に目を向けずに会話する。
「……まぁ、いいわ。妖怪退治は博麗の巫女の仕事だもの」
俺の隣に降り立った助っ人――霊夢が数枚のお札を構えながら呟いた。
第13話 逆転の一手
「れ、霊夢!?」
後ろで妹紅の叫び声が聞こえた。
「あら? 貴女たちもいたの?」
「いたぞ。それにしてもどうやって妖怪の事を?」
慧音から質問されて霊夢の代わりに俺が答えた。
「半霊だよ。白い幽霊を博麗神社まで飛ばしたんだ」
「なっ!? あの戦いの中でか!?」
「ああ。でも、伝わるかどうかわからなかったから不安だったのは確かだ」
曲が終わるまでに半霊が博麗神社に着くかどうかも心配だったし、着いたとしても霊夢は無視するかもしれない。本当に運がよかった。
「博麗の巫女は勘がいいのよ。状況は?」
「倒したら復活する妖怪。復活する度に強くなる。復活するのに仲間の助けが必要」
「一網打尽にするしかないって事ね」
黙って頷いて答える。因みにこの会話中、俺は人形を使って妖怪を薙ぎ払い、妖怪に襲われそうになった人形を霊夢が結界とお札を使って守っていた。
「……なぁ? 慧音?」
「なんだ?」
「コンビネーション良すぎじゃないか? あの2人」
「私も思っていた所だ」
後ろでこそこそと内緒話をしている妹紅と慧音。内容までは聞こえないがこちらをちらちらと見ている。
「で? 具体的な方法は?」
「まだだ。考えながら戦ってる」
「……駄目ね。私も思いつかないわ」
少し考えてから霊夢は首を横に振る。
「じゃあ、どうすれば……」
~ネクロファンタジア~
そばにいた人形は消えて紫の姿に変身する。
「げっ!? 紫かよ!」
紫は俺を幻想郷に閉じ込めた張本人だ。苦手意識は多少ある。
「……」
「? どうした?」
「それよ……スキマを使えばいいのよ!」
一度に何十枚ものお札を投擲しながら霊夢が俺に微笑みかけた。少しドキッとしてしまう。
「す、スキマって……紫が使ってるあの空間の裂け目の事か?」
「ええ」
霊夢は頷いてその先を続けようとするがそれを妖怪が邪魔した。牙が霊夢の首を狙う。
「妹紅!」
「わかってるって!」
俺は叫ぶと後ろから炎の弾が妖怪目掛けて飛び、炸裂する。
「使い方は!? わかるの!?」
少し離れてしまい、霊夢が大声で確認してきた。
「わからない! 少し時間をくれ!」
紫の能力は見るからに難しそうだ。出来るかどうかもわからない。
(時間は――4分か……)
PSPの画面を盗み見て時間を確かめる。
「妹紅! 霊夢! 私たちで響を守るぞ!」
「おう!」「わかったわ!」
慧音の指示通り俺の周りを囲むような陣形を取る3人。それを見てから集中するために目を閉じる。この力が俺たちの勝利を掴む事を願いながら――。
3分後――
「「「はぁ……はぁ……」」」
霊夢、慧音、妹紅の3人は肩で息をしていた。
「本当に……強くなっているわね」
「ああ、もう私の炎を弾き飛ばすほどにな」
「弾幕も効かないしどんどん速くなっている……私たちの体力も尽き掛けている。それにスペルも消費し尽くした」
(響は……響はまだなの?)
霊夢はチラッと後ろで目を閉じている響を見た。
「霊夢!? 危ない!?」
「え?」
妹紅の叫びを聞いて前を見たがもう妖怪が目の前まで来ている。鋭い歯がギラリと光る。
「しまっ――」
今からではお札を投げる前に噛み殺される。スペルを使いたいがもうない。万事休す。突然すぎて目すら閉じられなかった。スローモーションで妖怪が近づいて来る。
「――え?」
しかし、霊夢は噛み殺される事はなかった。目の前にどこかで見た事がある空間の裂け目が現れ、妖怪を飲み込んだのだ。
「これって……」
「すまん。霊夢、妹紅、慧音。遅くなった」
後ろを振り返ると扇子を片手にニヤリと笑う響の姿があった。
「本当に遅いわね」
「せっかく助けたのにお礼はないのかよ……」
呆れた様子で響が呟く。
「……ありがと」
少し恥ずかしくて明後日の方向を向いてお礼を言う霊夢。
「はい、よくできました」
まるで、兄が妹を褒めるように響は霊夢の頭に手をポンポンと乗せた。
「で? 出来そう?」
「ああ……でも、お前らのスペルがないのがきついな。スキマを展開してる時、俺スペル使えないし」
「……きついって言うのなら何かはあるのね?」
「そう言うこった……まぁ、賭けって奴だよ」
「本当に大丈夫なのか?」
霊夢と響との会話を聞いていた慧音が心配そうに聞いて来る。妹紅は妖怪を近づけさせないように炎を乱射していて会話に参加するどころではない。
「これしかないんだ。やるしかない」
そう言うと響は2人の返事も待たずに扇子を広げた。
(残り時間は20秒)
頭の中で確認した後、妹紅のおかげで遠くの方にいる妖怪たちの方を見る。
「行くぞ!!」
気合を入れる為に怒鳴り、扇子を閉じ、横に振るう。
「バウッ!?」
妖怪の足元にスキマが展開され、落ちた。その後も続々と落ちる妖怪たち。
「妖怪たちの行き先は!?」
霊夢が慌てたように聞いて来る。
「それは――」
――残り10秒
「上だ!!」
俺たちの遥か真上に放り出された妖怪たちは態勢を立て直せずに落ちて来ている。
(後、5秒!)
「お、おい!? これからどうすんだよ!」
妹紅が慌てているが無視する。余裕がないのだ。一方、妖怪たちはやっとバランスを取り戻し、こちらを凝視している。
(チャンスは一度きり。運が良かったら俺の勝ち。運が悪かったら妖怪たちの勝ちだ!)
心の中で言うとこの戦いを締めくくる最後の変身を迎える。
~霊知の太陽信仰 ~ Nuclear Fusion ~
体が光り輝き、白いシャツの胸の所には赤い大きな目のような装飾があり、下は緑のスカート。頭にも緑色のリボン。背中からは今までで一番大きな黒い翼。そして――。
「な、何だ!? この棒!?」
右手に棒状の何かが装着されている。重くて支えきれず地面に叩き付けてしまった。
「響! 妖怪がバラバラに移動するわ!」
霊夢に言われ、上を見ると妖怪たちはいくつかのグループに分かれて移動しようとしていた。
「どうにでもなれ!!」
制御棒を真上に向けて懐から1枚のスペルカードを取りだす。
「爆符『メガフレア』ああああああああああああああああああッ!!」
俺の大声に反応して制御棒にエネルギーが凝縮され、辺り一面に爆風を撒き散らしながら『ファイナルスパーク』と同等の威力を持ったレーザーが撃ち出される。そして、一か所にいた妖怪たちを飲み込んだ。一匹残らずに――。
「れ、霊夢、結界を! これでは人里にも影響が!」
「もうやってるわよ!?」
「私も炎で爆風を抑える!」
「余計、暑くなるだろう!!」
後ろで霊夢たちが慌てているのがわかったが俺もこの威力は予想外だった。威力がすごすぎて右腕の骨が軋み始める。下手したら折れるかもしれない。
「くっ!?」
右手だけでは支えきれず、左手で棒を安定させる。人里が心配だ。この爆風に煽られ、家が大破する可能性もある。それに熱気がすごいのだ。このままでは人里が灼熱地獄になってしまう。
心配しているとレーザーは小さくなり、妖怪たちが落ちて来た。あの攻撃を受けても焼失しなかった事に驚く。因みに腕は折れていなかった。
「ひ、人里は!?」
急いで振り返って確認すると汗だくで地面に座り込んでいる3人と俺が来た時と何も変わっていない風景がそこにあった。
「よ、よかった……」
安心した途端、力が抜けて俺もその場に座ってしまう。
「ほ、本当よ……もう少しで人里が灰になる所だったじゃない!!」
そこへ文句を言いに霊夢がやって来る。
「す、すまん、まさかあれほどの威力とは……」
これからは知らないコスプレをした時、慎重にスペルを使う事を心に誓った。
「まぁ、いいわ。何事もなかったのだから」
呆れ半分安心半分でそう言い、手を差し伸べて来る。
「さんきゅ」
反抗せずに手を掴んで立ち上がった。
ピシッ!
その瞬間、後ろからガラスが割れたような音が聞こえる。
「嘘!? まだ復活するの!?」
霊夢が焦ってお札を取り出したがそれを手で制止させる。
「安心しろ。あいつらは仲間がいないと復活出来ない」
それを証明するように背中に皹は入っているがそれから何も起こらなかった。
「終わったのね?」
「ああ、そう……だ」
肯定する為に頷こうとしたが急に目の前が歪んだ。まともに立っていられず霊夢に寄りかかってしまう。
「ッ!?」
霊夢の体がビクッと震えた。それほど驚いたのだろう。その拍子に霊夢の体が移動し俺を支える物がなくなり、地面に倒れてしまった。
「きょ、響!?」
「悪い……寝る」
あの時と一緒だ。『ファイナルスパーク』を放った時と。俺の異変に気付いた慧音と妹紅も駆け寄って来る。霊夢の顔がひどく歪んだ。眩暈のせいではない。
「寝るって!? どういう事!? 返事して!! 響!!」
(そんな顔して……心配してくれるのか?)
神社の時とは全く違う。霊夢は俺の体を起こして揺すっている。
(なんだか……懐かしい匂いがする……でも、どうして?)
疑問に思いながらも霊夢の叫びも空しくゆっくりと目を閉じた。
第14話 契約
「元気かしら?」
「うるさい。スキマババアが」
不思議な浮遊感の中、目の前にあの忌まわしきスキマ妖怪が現れた。しかも、スキマに腰掛けた状態だ。腹が立つ。
「今、なんて?」
ババアと聞いた途端、紫の目が据わる。
「な、何でもない……で? 何の用だ?」
「何よ~その言いぐさ。折角、夢の中に遊びに来たのに~」
「はぁ? 夢?」
言われて周りを見渡した。本当に何もなかった。人もいなければ建物もない。地面すらない。夢と言われて納得がいく。
「ふふふ。驚いた?」
「ああ……で? 何の用だ?」
「変わらないのね……私は貴方を勧誘しに来たのよ」
「会社にか?」
「ええ、やっぱり入社させたいのよ」
「そうか……でも、残念だったな」
妖怪たちと戦った時、俺は紫のコスプレをした。そして、気付いたのだ。自分の力で帰れる方法を――。
「私の力を使って幻想郷から脱出する。それが貴方の作戦でしょ?」
「っ!?」
だが、紫にズバリと言い当てられた。
「それこそ残念ね。そのPSPは境界を弄られて1曲、終わる毎にリセットされる。つまり、同じ曲が連続で再生される可能性もあるってわけ。さて、何曲ぐらい入っていたかしら?」
普通ならシャッフルにしていても1周しないと同じ曲は再生される事はない。しかし、このPSPはそういった履歴が毎回、消される。紫はそう、言いたいのだ。
「いつになったら再生されるかしらね~。私の曲」
「くっ……」
例えば、ここに10本の箸があり、1本だけに赤い印を入れる。この箸をシャッフルしそれを一人ずつ引いて行く。最初は10本の中で1本しかない当たりでも引いて行く内にはずれの箸が少なくなり、確率が上って行く。
でも、俺のPSPは違う。人が引いた後に新たにはずれの箸を追加して行くのだ。これでは確率は一生、上がらない。しかも、俺のPSPに入っている曲は150以上――。
「それでも! いつか再生される時が来るはずだ!」
そう、どんなに確率が低いクジでもいつかは当たる時が来る。それを待っていられる自信がある。
「確かにそうね。でも、誰かがインチキをしていなかったら……ね?」
「え?」
紫の発言の意味が分からず、硬直してしまった。
「それを私がさせるはずないでしょうに。貴方が私の力を使うのなら私だって自分の力を使って阻止するわ」
「な、何だって……」
「どうしようかしら……私の曲が再生された瞬間に別の曲に切り替える? それともイヤホンのコードを切る? もう一度、PSPの境界を弄ってバッテリー切れを起こす? それとも――貴方のPSPから私の曲を消す?」
扇子で口元を隠して紫が言った。
「――ッ!?」
背中に冷や汗が流れる。やっと見えた希望の光がゆっくりと消えていく。
「……それほどこの幻想郷から出たいの?」
俺の様子を見て少し寂しそうに聞いて来る紫。
「……ああ」
「幻想郷が嫌い?」
「いや、そうじゃない。ここにいたらコスプレしなきゃいけない。でも――」
ここに来てから一番、気になっていた事。一番、心配だった事。
「外には……家族がいるから」
「本当にあの家族の元に帰りたいの?」
「ああ」
「血が繋がっていないのに?」
「……そうだ」
「なら、なおさら私の会社に入りなさい」
「だから!! 帰りたいって言ってんだよ!!」
会社に入ってしまえばもう帰られないはずだ。だから俺は拒んできたのだ。
「何言ってるのよ。帰すわよ?」
呆れたように紫。
「……は?」
「貴方が会社に入ったら“外界担当”にするつもりなのよ」
「外界ってまさか……」
「ええ、貴方は外の世界と幻想郷を行き来、出来る数少ない人間になるの」
(外の世界と幻想郷を行き来……?)
「い、いつから? そう考えていた?」
「最初からそのつもりだったわよ」
「じゃ、じゃあ俺はもっと早く――」
「帰れたわね」
その場で脱力。紫の会社に入っていればコスプレを霊夢や魔理沙、アリスなど幻想郷の住人に見せびらかす事もなかったしあんな妖怪と戦わなくてもよかったのだ。
「マジかよ……」
「ふふふ。とても面白かったわよ? 響ちゃん」
「っ!? ちゃん付けすんじゃねえええええええええ!!」
聞いた刹那、鳥肌が立った。それほど嫌なのだ。
「はいはい。わかった。でも、あの子にはちゃんとお礼を言うのよ?」
「あ、あの子?」
「目が覚めればわかるわ。じゃあ、貴方が元気になったらまた来るわ」
そう言いながらスキマに足を入れ始めた。
「お、おい!? 仕事とかについては!?」
「それは後日。今日は契約しに来たのよ。それも今、成功したし私の用事はもう終わったの。帰って寝なくちゃ」
(寝るんかい)
「最後だ! 何で俺な――」
しかし、質問する前に紫がスキマに完全に飲み込まれ、俺の意識もなくなってしまった。
――ねぇ? 大人になったら結婚してくれる?
――結婚って何?
――知らないの?
――うん
――やっぱり、こういうの興味ないんだ
――ねぇ! 結婚って何?
――結婚はね~好きな人と一生、一緒に暮らす事だよ!
――へ~! じゃあ、***ちゃんと結婚する!
――ッ!? ほ、本当!?
――うん! 好きだもん!
――大好きだよ!! ***ちゃん
――これからも一生、一緒だよ!
――うん!
「……」
ゆっくりと意識が浮上して来て目を開けた。
(何なんだろう……今の)
紫と契約を結んだのはよく覚えている。だが、今見ていた夢については霞んでいた。
「くっ!?」
体を起こそうとして動いた瞬間、鋭い痛みが走る。仕方ないので首を動かして周りを観察した。
「……寺子屋?」
慧音と仕事の話をした場所と同じだった。そこに布団を敷いて俺が寝ている状況だ。暗いので夜らしい。
「ん?」
ふと右側に重みを感じてそちらを見る。
「すぅ……すぅ……」
そこに霊夢がいた。看病していてくれたのかその横に桶があった。霊夢はうつ伏せの状態で俺の体に寄りかかっていた。
(紫が言ってたのはこれか……)
「響……」
起きたと思ったが寝言のようだ。すぐに寝息が聞こえて来る。
「……ありがとな。霊夢」
体が動かせないのでもう一度、目を閉じる事にした。
(こっちに来てから色々、あったな……)
コスプレ、弾幕、コスプレ、妖怪、コスプレ、戦闘、コスプレ――。
(あれ? ほとんどコスプレだ……)
思い出した景色はコスプレした俺の姿。嫌になる。
「全部……PSPから始まったのか」
悟に東方を教えられ、気に入り、曲を入れ、聞き、ここに来た。
(偶然なのか?)
「響?」
考え事をしていると霊夢が目を覚ましたようだ。俺の顔を覗き込んで来た。
「おはよう」
「おはよう……って! 慧音! 妹紅! 響が目を覚ましたわよ!!」
大慌てで部屋を出て行った霊夢に苦笑してしまう。
(お礼……言いそびれたな)
そんな事を思いつつ、霊夢が帰って来るのを待つ。
俺は気付いていなかった。外と幻想郷を行き来するのだからまたコスプレする事を――。
人生が180度ひっくり返ってしまう事を――。
そして、運命の歯車が回り始めたのを――。
第1章 ~狂気と血~
第15話 帰還
「はぁ!? 5日間!?」
ここは寺子屋。驚きのあまり叫んでしまった俺。
「本当に……どれだけ寝れば気が済むのよ」
「ほ、本当なのか!? 慧音!」
「ああ、ぐっすりだ」
夜明けに目を覚ました後、俺が気絶した後の事を聞いていた。
妖怪たちは霊夢がお札を貼り付けて一時的に封印し、紫の能力で妖怪たちの能力に制限をかけてそこら辺の森に捨てて来たそうだ。これで不死身妖怪は一生、復活する事が出来ないとのこと。
問題は俺だった。力を使い果たした俺は何をしても目を覚まさないので人里の住人たちは心配していたらしい。人里を守った英雄だからだそうだ。妖怪たちが襲って来てから5日後、ようやく目を覚ました。
「マジか……」
幻想郷に来てもう1週間経った事になる。
「まぁ、これで一安心だな」
慧音が安堵の溜息を吐きつつ、そう言った。
「じゃあ、説明してもらおうか?」
「何の?」
妹紅の質問の意味が分からず、聞き返す。
「お前の能力についてだよ。私や慧音、霊夢の服装になった事。私たちのスペルが使えた事。どういう事なんだ?」
「ああ、それは――」
ここに来てから何度目かの能力の説明をする。
「……何とも変な能力だな」
説明を聞き終えた妹紅は呟いた。
「ああ。それを使いこなしている響もすごいが……」
慧音も妹紅の呟きに便乗し感想を漏らす。
「いや、運が良かっただけであって使いこなしてるわけじゃないぞ?」
そう、ただ運が良かった。あそこで紫になってなかったら今頃どうなっていたかわかったもんじゃない。
「で? これからどうするの?」
霊夢が不意に俺に問いかける。
「どうするって何が?」
「人里に住むの?」
(ああ、その事か……)
「いや、住まない。かえ――」
「じゃあ、どこに住むの?」
『帰れるようになった』と言う前に霊夢が遮った。
「いや、だからかえ――」
「少しの間なら私の所でもいいのよ? 仕事が見つかるまででも」
「だか――」
「ま、まぁ、響なら万屋でも熟せるでしょうし。すぐに出て行っちゃうかもしれないけど。始めた頃は依頼なんて来ないわ。きっと」
「だ――」
「それなら私と一緒に妖怪退治してもいいし。私たちって意外にコンビネーションがいいらしいわ。慧音と妹紅が言っていたのよ」
「しゃべらせろやああああああ!!」
何度も何度も遮られては言いたい事も言えない。
「住むなら何かと必要な物もあるかも。ちょっと、買い出しに行って来るわ」
「あ、おい! 霊夢!」
俺の言葉は全く届いていないようで霊夢は寺子屋を飛び出して行った。
「「「……」」」
置いて行かれた俺、慧音、妹紅はあまりの事にしばらく硬直する。
「はぁ~い……どうしたのよ? この空気」
そこへタイミングがいいのか悪いのかスキマから紫が出て来た。
「い、いや……何でもない」
紫が出て来ても慧音と妹紅は復活出来ず、俺は対処する事になった。
「そう? まぁ、いいわ。貴方にこれを渡そうと思って。あ、使うならPSPを装着してからね」
そう言いながら紫は1枚のスペルカードを差し出してきた。それを黙って受け取ってからPSPを装着し、イヤホンを右耳に差す。
(イヤホン、買い換えないと……)
そう考えながらスペルを宣言した。
「移動『ネクロファンタジア』」
~ネクロファンタジア~
「……うおっ!?」
服が輝き、半そで短パンから紫の服装にチェンジした。全てがスムーズ過ぎてワンテンポ遅れて驚く。
「すごいでしょ? そのスペルを唱えればいつでも私になれるわ。でも、弾幕ごっこの時は使えないから気を付けてね?」
「使えない?」
「ええ、私の能力は使えるけどスペルは無理よ。逃げる時にでも使いなさい」
「そうか。さんきゅ」
これで俺は外の世界に帰れると言うわけだ。
「じゃあ、今すぐ帰りなさい」
「え? さすがにそれは早すぎるんじゃ……」
「貴方は外の世界で失踪している事になっているわ。そして、今妹さんが貴方の家で警察に事情を説明している途中よ」
「はぁ!?」
さすがに1週間は長すぎたようだ。
「ほら、急いで妹さんに元気な姿を見せて来なさい」
「お、おう! ありがとな!」
懐から扇子を取りだしてスキマを展開する。出る場所は俺の部屋。
「後、これを持って行きなさい」
「ああ! わかった! またな!」
差し出された物を確認せず、受け取ってスキマに飛び込んだ。
「「ハッ!?」」
あまりにも霊夢が乙女過ぎて放心していた。慧音も私と同じようでほぼ同時に目を覚ます。
「な、何なんだ? あの霊夢は」
慧音が私に質問して来るが分からないので首を横に振った。
「本当に何があったのよ……」
後ろから声が聞こえて振り返って見ると八雲紫がいた。
「い、いつの間に?」
「10分ほど前かしら?」
(き、気付かなかった……)
「む? 響はどこへ行った?」
慧音がキョロキョロしながら呟く。
「響なら私の隣に……あれ?」
先ほどまで響は確かに隣にいた。だが、今は姿が見えない。
「あの子なら行っちゃったわよ?」
「行っちゃったってど――」
「ただいま~」
どこへ行ったのか紫に聞こうとしたら霊夢が帰って来た。
「響、結構大荷物になったから運ぶのてつだ……響は?」
大きな袋を抱えて霊夢が私たちのいる部屋へ入って来た。
「行っちゃったらしいぞ?」
「……え?」
問いかけに答えたると霊夢は目を見開いた。
「ど、どこに?」
「さぁ? 紫は知ってるみたいだけど」
「でも、紫も帰ったぞ」
「はぁ!?」
慧音に言われ紫の方を見ると誰もいなかった。
「……まぁ、いいわ」
「お、おい? 大丈夫か?」
あれほどはりきっていたのだ。心配してしまう。
「ええ。じゃあ、私は神社に帰るわね? アリスに5日間もお留守番させてるのよ」
(アリスも災難だな……)
「ああ、わかった。後始末はまかせろ」
これから人里の住人に響の目が覚めてどこかへ行った事を報告しなければならない。どこぞの鬼が妖怪退治のお礼として宴会の準備をしている。お礼を言う奴はもういないが――。
「宴会の日時がわかったら教えて」
「了解した」
慧音が返事をすると霊夢は寺子屋を去った。
「なぁ? 妹紅」
「何だ?」
「霊夢はどうして響の事を?」
「私が知るか」
ただそれだけが謎だった。
「やっと……帰って来られた」
スキマを潜り抜けたら見覚えがある部屋に到着した。そう、俺の部屋だ。
「長かったような短かったような……全く、えらい目にあったぜ」
そう、呟きながらイヤホンを引っこ抜く。いつもの部屋着に戻った。PSPをホルスターから引き抜き、PSPを机の上に、ホルスターを引き出しに仕舞う。
(さて……)
ここからが本番だ。深呼吸して俺は部屋を出た。