第36話 あの悲劇をもう一度
今回もグロ注意です
「響ちゃん?」
レーザーが消えた後、響ちゃんは空中に浮いたまま硬直していた。だが、すぐに落下し始める。このままでは頭から図書館の床に叩き付けられてしまう。
「響ちゃん!!」
「全く……しょうがないんだから」
向かおうとした矢先、霊夢さんが呟きながら響ちゃんを受け止めていた。それを見てほっと安堵の溜息を吐く。
「……」
しかし、霊夢さんは難しい顔のまま降りて来る。
「どうした?」
それが気になったのか魔理沙さんが声をかけた。
「多分……響はまだ戦ってる」
「何? どういう事?」
今度はレミリアさんが質問する。
「体は狂気の支配から解かれたみたいだけど……魂の取り合いをしてるみたいなの」
「魂の取り合い……」
携帯に映っていたあの空間はもしかしたら、響ちゃんの魂の中だったのかもしれない。実際、小悪魔さんが持っている携帯の画面は真っ暗だ。フランさんも小悪魔さんの横から携帯の画面を掴んでそれを凝視している。
「私たちに出来る事は!?」
携帯を握りしめてフランさんが霊夢さんに問いかけた。
「ないわ。響を信じるしかない」
霊夢さんの言葉を聞いて私は響ちゃんの顔を見る。その顔はこちらがぞっとするほど無表情だった。
「もう……2時間だな」
「そうですね」
「息はしているようですけど……生きているとは言い難い状況ですね」
「文さん! 不吉な事、言わないでください!」
「あやややや~! ごめんなさい」
ここは紅魔館のとある一室。魔理沙と早苗、射命丸の3人はベッドで静かに眠っている響を看病していた。他の人は動いていた。紅魔館にいる妖精メイドはほとんど動かないので誰かが働かないといけない。しかし、咲夜は足に怪我を負ってしまったので一人では紅魔館の仕事を熟す事が出来なくなってしまい、美鈴、パチュリー、小悪魔、霊夢の4人が手伝っていた。紅魔館に住んでいない霊夢は動いていないと最悪な結末を考えてしまうから働いているらしい。他の人も同じように響の事を心配していた。特にフランドールは図書館の本棚のいくつかを無意識で壊してしまうほど不安定になってしまった。レミリアは姉と言う事もあってフランドールの傍にいた。余った3人が響の傍で様子を見ていると言うわけだ。
「それにしても響さんって強いですね。狂気に取り込まれていたとはいえ、あの時のスピードは私と同等、いやそれ以上かも……」
むむむ、と唸りながら射命丸が呟く。
「それはない。お前の方が速いよ」
だが、魔理沙がそれを否定する。その表情は面白くなさそうだ。過去に幻想郷最速の名前を取られたからだ。
「そうですか?」
嬉しそうに口元を緩ませ、射命丸は言った。
「知ってて言ったろ?」
「あ、ばれちゃいました」
「もう! 二人とも、ちゃんと響ちゃんの看病してください!」
汗を拭うためのタオルを片手に早苗がふざけている二人を注意する。
「だって、早苗がずっとそうしてるから私たち、する事ないんだ」
魔理沙の言う通り、早苗が一人で看病を熟している。魔理沙も射命丸もする事がないのだ。
「それはそうですけど……」
「それよりも私、気になったんですけど」
射命丸がどこからかメモ帳とペンを取り出して早苗に詰め寄る。
「な、何ですか?」
「響さんとどういった関係なんですか? 初めて会ったとは思えません」
「……外の世界で親友だったんです」
早苗の表情は懐かしさ半分寂しさ半分。昔の事を思い出しているらしい。
「親友……ですか?」
「はい。初めて会ったのは神社でした」
「そう言えば、信仰を求めてここに来たんだったな」
魔理沙の呟きに一つ、頷く早苗。それから続きを語り出す。
「あれは……響ちゃんが中学2年生の時です――」
私は境内の掃除をしていました。
「はぁ……」
信仰について悩み始めていた頃で神奈子様も諏訪子様も心配するほど私は元気がありませんでした。そんな時です。
「すみませ~ん。お守りください」
中学校の制服を着た響ちゃんが神社にやって来ました。
「あ、はい! 少し待っててください!」
箒を立てかけて急いで売り場に入りました。
「何のお守りでしょうか?」
「……健康、ください」
お守りを探している途中でふと、響ちゃんの方を見ました。その時の響ちゃんの顔がひどく寂しそうだったのをよく覚えています。
「あ、あの……」
「何でしょう?」
「何かあったんですか?」
それを見て何故か放っておけなくなり、気付いたら話しかけていました。
「まぁ……はい」
「聞かせてくれませんか?」
「……父が病気で今、峠なんです」
「そうなんですか……何かすみません」
「いえ、謝る必要なんて……」
沈黙が流れました。
「お名前は?」
でも、その沈黙を破ったのは響ちゃんでした。
「こ、東風谷早苗です」
「早苗さんですか。俺は雷雨らいう 響です」
「ちょ、ちょっと待て!」
そこで魔理沙がストップをかける。
「何ですか?」
「響の苗字は『音無』だ。どうして、『雷雨』なんだよ」
「……父親の苗字です」
早苗はそれだけ言った。
「……あ、そう言う事か」
だが、魔理沙は理解したらしい。それ以上、何も言わなかった。
「う……あ」
「「「ッ!?」」」
早苗が続きを話そうとした時、響がうめき声を上げた。
「響ちゃん!」
「射命丸! 皆に……ってもういないぜ」
早苗は響の元へ駆け寄り、魔理沙は射命丸に指示を出すが射命丸はもう部屋にいなかった。響の事を働いている皆に伝えに行ったのだ。
「あ……ああああああああああああああああああああああああッ!?」
突然、響は絶叫する。体を苦しそうに震わせ、ベッドから落ちそうになった。
「きょ、響ちゃん!?」
「早苗! そっち、押さえろ!」
「は、はい!」
ベッドから落ちないように響の体を押さえる早苗と魔理沙。その間も響は叫び続けた。そのせいで喉が傷つき、口から血が垂れる。
「お、れは……」
叫びの中で響が何かを言った。
「な、何ですか!?」
「俺は……お前らを、お前ら……ああああああああああッ!?」
「お前らって誰だよ! 響!!」
魔理沙は響に質問するが響は叫ぶばかりで答えようとしない。いや、聞こえていないだけだ。
「響!」
その時、霊夢が到着する。咲夜、美鈴、パチュリー、小悪魔がその後に続く。
「どういう事なの!?」
「私だって聞きたいぜ!」
霊夢が響を押さえるのを手伝いながら魔理沙に問いかける。しかし、魔理沙も今の状況に混乱しているのだ。答えられるはずがない。
「あああああああああああ、あ……」
その時、急に響が叫ぶのをやめ、暴れなくなった。
「……響?」
霊夢が名前を呼ぶが返事はない。
「響! 大丈夫!?」
皆が呆然としている所にフランドールとレミリア、射命丸がやって来た。
「さっきまで絶叫してたんだが……それが急に」
魔理沙が三人に状況を説明。
「狂気の気配が……」
フランドールがぼそっと呟く。
「どうしたの? フラン」
一番、近くにいたレミリアが聞いた。
「響の中にいた狂気の気配が消えた……ううん。小さくなったの」
「小さく?」
「うん。多分、響は狂気に勝ったんだと思う」
フランドールの言葉を聞いて皆、ほっとしたようだ。
「……」
だが、霊夢とフランドールだけは何故か困った顔をしている。
「霊夢さん?」「フラン?」
それに気付いた早苗とパチュリーがそれぞれの名前を呼ぶ。
「ねぇ? フラン」
それを無視して霊夢がフランドールに話しかける。
「何?」
「響は勝ったんでしょ?」
「うん」
「だったら……どうして顔から生気がなくなっていくの?」
そう、響の顔がどんどん真っ青になっていくのだ。まるで、寿命が尽きようとしている老人のように。
「……」
フランドールは黙って響に近づく。そして、その小さな手で響の頬にそっと触れた。その刹那――。
――響が寝ている部屋が真っ赤に染まった。その色は紅魔館と言う言葉に相応しい色だった。
「きゃ、きゃあああああああああああああああああッ!?」
早苗の悲鳴が響く。その顔に紅くて生暖かい液体が付着している。
「な、何が……」
魔理沙は戸惑う。その服は紅く染まっていた。
「きょ、響……」
霊夢が奥歯を噛む。霊夢は知っていた。こうなるような気がしていたのだ。だから、悔しかった。知っていたのに止められなかった事を。
「ま、まさか……また、私……」
フランドールは己の震える右手を見つめながら目を見開く。その目には恐怖しか浮かんでいなかった。
他の人も同じように顔を、服を紅く染めて放心していた。
響の体が何かにズタズタに引き裂かれ、その衝撃で体内の血が大量に外に吹き飛んだのだ。昔、フランドールに壊された時と同じようにその姿はもはや、肉としか言えなかった。
第37話 フランドール・スカーレット
「落ち着きなさい!」
真っ赤に染まった部屋でお姉様の声が響いた。
「お、おね、おねえ……さま」
体が上手く動かない。私が響に触れた瞬間、響の体が弾けた。つまり、無意識の内に能力を使ってしまったのだ。また、私が響を壊してしまった。
「フラン! よく見なさい!」
「え?」
「響は皮膚が引き裂かれたの。それも内側からね。その証拠に響の服は全く傷ついてない」
お姉様の言う通り、響の服は紅く染まっているがどこにも穴がなかった。
「それに貴女が無意識で能力を発動してしまったのなら、響は粉々になっているはずでしょ!」
「じゃ、じゃあ……」
「響がこうなってしまったのは貴女のせいじゃないって事! パチェ! 治癒魔法! 咲夜は代わりとなる血液の準備! 美鈴は咲夜の補助!」
お姉様は皆に素早く指示を出した。それを聞いて咲夜と美鈴は部屋を出て行き、パチュリーは響に手を翳し、呪文を唱えた。
「私! 咲夜さんを手伝って来ます!」
天狗も部屋を出て行った。名前は確か、射命丸だったような気がする。
「早苗! 結界、貼るわ! 手伝って!」
「あ、ああ……」
霊夢が早苗に協力を求めるが早苗は響を凝視して硬直していた。それほどショックだったらしい。
「放心してんじゃないわよ! 動かなかったら響が死ぬの!」
「っ!? は、はい!」
霊夢の言葉を聞いて早苗が我に返った。
「いい? 貼る結界は……」
「わかってます! ばい菌などが入って来れないようにするんですね!」
「そう! 他にも回復を促進したりするからよろしく!」
部屋にペタペタとお札を貼りながら話し合う巫女二人。
「パチュリー! 賢者の石、頼む!」
魔理沙はパチュリーの近くまで駆け寄り、叫んだ。
「……魔力、借りるわね」
どうやら、先ほどとは逆に魔理沙の魔力をパチュリーに送るつもりらしい。
「おう!」
魔理沙は5つの結晶に魔力を注ぎ、パチュリーに魔力を送り始めた。
「パチュリー様! 包帯、持って来ました!」
「貴女は傷の手当てを。これだけ傷口が多かったら出血多量で死ぬから」
「はい!」
それぞれが響を助ける為に動いている。
「……」
それを私はただ眺めていた。何も出来なかった。それがとても悔しい。私は壊す事しか出来ないから。
「貴女には貴女のやるべき事がある」
「お、お姉様?」
「皆がやっている事は時間稼ぎ。それは皆、知ってる。でも、助けたい。助けたいから諦めずに運命に逆らおうとしてる。どうしてかは分からないけどね」
私の肩に手を置いてお姉様がウインクした。
「あの時と同じでしょ? だったら、あの時と同じ方法で解決出来るんじゃない?」
「ま、待って! これ以上、私の血を飲めば吸血鬼になっちゃう! それに狂気だって力が増す……また、暴走しちゃうかも」
「そん時はそん時よ」
お姉様が無責任な事をほざく。
「お姉様!」
「冗談よ。私が言いたいのはこのまま放置して響が死ぬ。それを貴女は一生、後悔するんじゃないの?」
「そうよ」
その声を聞いてこの部屋にいた全員が響を見る。何故なら、声を出したのは響だったからだ。目を開けて私を見る。その目は真紅だった。
「お、お前は……」
お姉様が呟いた。
「お久しぶり。フラン、レミリア、パチュ」
背中から漆黒の翼が生え、その反動で響は起き上がった。小悪魔が巻いていた包帯が一気に紅くなる。霊夢、魔理沙、早苗は驚いて目を見開いていた。
「あ、あの時の吸血鬼!」
だが、私はそれどころではなかった。
「うん。あの時の吸血鬼よ。また会うとは思わなかったけどね。さて、時間もないし皆、作業しながらでいいから聞いて。私は響の中にいる吸血鬼。そこまでいい?」
それぞれが黙って頷く。
「それで魂の状況の何だけど……見事、響は狂気に打ち勝ってこの体の所有権を奪還したの。でも、狂気が最後の抵抗を見せて響の内側からこの体を引き裂いた」
「響は今どこに?」
霊夢が結界を貼る準備をしながら質問した。
「魂の中で休んでる。今、目を覚ませば激痛でショック死するわ。私だってきついのよ?」
見れば吸血鬼の口元がピクピクと引き攣っている。それほど辛いのだろう。
「パチュ、後どれくらいでこの体は死ぬ?」
「そうね……後、3分くらい? いや今、結界を貼ったから5分ね」
「ッ!?」
パチュリーの言葉を聞いて私は目を見開く。
「吸血鬼……一つ、いい?」
「何?」
私の方を見て首を傾げる吸血鬼。その衝撃だけでも首から血が溢れた。
「響は生きたいと思ってる?」
「……ええ。自分の存在が変わろうと俺は俺だって言ってたわ」
「そう……」
それを聞いて私は黙って右手の人差し指の先端を噛み千切った。痛みで顔が歪む。少なくない血が流れる。
「お、おい! 何やってんだよ! フラン!」
魔理沙が慌てて私の傍に駆け寄ろうと結晶から離れた。
「魔理沙、戻って。時間が短くなる」
しかし、パチュリーがそれを止めた。それを聞いて魔理沙は数秒間、私を見て戻って行った。私が狂気に取り込まれていないか確認したらしい。
「やっぱり……これしかないんだよね?」
「そうね。響には悪いけど……生きる為だもの」
「ま、待ってください!」
私が人差し指を吸血鬼に差し出そうとした時、早苗が叫んだ。
「何するつもりですか!」
そう叫びながら早苗が私を睨む。それを霊夢が止めに入った。
「だって! 響ちゃんの身に何かが起きたらどうするんですか!」
「今は時間がないの。黙って」
「霊夢さん!」
「黙りなさい!!」
「っ!?」
霊夢の怒鳴り声にこの部屋にいた全員が肩を震わせる。
「このままだと響は死ぬ! それだけなの! 貴女は響が死んでもいいの!?」
「……」
早苗は俯いてごめんなさいと謝った。
「続けて」
「わかった。吸血鬼? 出来るだけ少なく飲んで」
霊夢から許可を得て、吸血鬼に忠告した。
「それはもちろん。でも、この傷だから結構、飲まなきゃ駄目みたい」
「とにかく、響を助けて!」
「わかってる。じゃあ、飲むわよ?」
私が突き出した人差し指を吸血鬼は咥えて血を飲み始めた。固唾を飲んで見守る皆。いつの間にか咲夜たちも戻って来ている。
数分後、響は峠を越えた。
「それにしても……吸血鬼の治癒能力には驚きだぜ。あれほどの傷がみるみる治って行くんだもんな」
「元々、響の体の中には吸血鬼がいたから血の量も少なかったし、よかったよ」
ベッドに腰掛けながら魔理沙と私は話し合っていた。響はまだ後ろで寝ている。しかし、その顔色はとても良かった。これでもう安心だろう。
「でも、どうして響の体の中に吸血鬼や狂気がいたんだ?」
「それは……話せば長くなるから割愛で」
「……ま、いいけどな」
60年前の事は出来るだけ話したくなかった。理由は自分でもわからない。でも、話したくないのだ。
「これで狂気異変も解決だな」
「そうだね」
「いや~今回はどうなるかと思ったぜ。さて……」
そこで魔理沙はベッドから降りた。
「どうしたの?」
「本を借りに行くだけだ。お前はここで響の様子を見てろよ」
「え? ちょ、魔理沙!」
名前を呼ぶが魔理沙は彗星の如く部屋を出て行った。因みに他の人は紅魔館の修理の手伝いだ。
「……」
何故か緊張する。それもそのはずだ。今回の異変の元凶は私なのだから。
「響が起きたら何て言おう……うぅ~」
もし、許してくれなかったらと思うと怖くなり、弱々しく唸る。もう一度、響の顔を見ようと振り返った。
「え?」
それと同時に頭に手が置かれる。
「お疲れ。フラン」
そして、笑顔でくしゃくしゃと私の頭を撫でた。
「響?」
「ああ」
「本当に響なの? また、吸血鬼とか狂気とかじゃないよね?」
「今の俺は俺だ」
「……」
どうしてだろう。視界が歪んでいる。
「ほら、泣くなって……」
「え? 泣いてる? 私が?」
「ああ」
私の目を親指で拭って見せてくる。見ればほんのり濡れていた。
「自覚なかったのか?」
「うん」
私は泣くつもりなどなかった。でも、自然に出て来てしまう。止められない。
「そうだ。フラン」
「何?」
「ありがとう。俺がこうやって生きていられるのもフランのおかげだ」
「で、でも! 今回は私のせいだし……それにまた響は吸血鬼の血を飲んだから吸血鬼に近づいたんだよ! 人間じゃなくなっちゃうんだよ!?」
吸血鬼の血は人間の血を殺し、その量を増やしていく性質がある。つまり、体内に吸血鬼の血が一滴でも入ればいずれその人は吸血鬼になってしまうのだ。
「言ったろ? 俺は俺。人間であっても吸血鬼であっても俺は変わらない。俺が変わるのは死んだ時だ」
「……響」
「うん」
私が名前を呼ぶと私の頭を撫でながら頷く響。
「響!!」
「うわっ!? 急に抱き着くなって! まだ完全に傷口はふさがってねえええええええええええっ!?」
傷が痛み、絶叫する響だったが私はお構いなしに抱き着く。全力で。
「あーあ……やっぱり、最後はフランかよ」
響とフランドールがはしゃぐ部屋の外に霊夢、魔理沙、早苗、レミリア、咲夜、パチュリー、小悪魔の8人がいた。射命丸は異変の記事を書きに妖怪の山へ。美鈴は門番の仕事に戻った。魔理沙は頭の上で腕を組んでつまらなさそうにぼやく。
「仕方ないじゃない? 響が寝ている間、一番心配してたのフランだし」
それを霊夢が宥める。
「入れないですね。良い雰囲気ですし」
「そうね。響が男だったらさすがに入ってるけど。妹様が襲われてしまったらと考えるとね」
早苗の後に続いて咲夜が呟いた。残念ながら響は男だ。
「さて……私は図書館に戻るわ。小悪魔」
「は、はい!」
宙に浮いてパチュリーは小悪魔を連れて帰って行く。
「あ、レミィ?」
「何?」
だが、途中で何かを思い出しレミリアの方を振り返る。
「本当の事、言わなくてもいいの?」
「……今更、言う事もないでしょ?」
「それもそうね」
それからフランに抱き着かれて絶叫している響の声がしなくなるまで6人はその場に居続けた。因みに響の骨が2本ほど折れたと報告しておこう。
狂気異変、解決!
ですが、もうちょっとだけ第1章は続きます
第38話 禁書
「ごめんね」
フランは俯いて謝った。
「いや、大丈夫だって。骨も治ったし」
それを一言で許す。だが、フランの怪力で骨が折れた時は冷や冷やした。何故なら、その骨が肺に突き刺さり、痛みで気絶するほどだったのだ。外にいた皆がフランを止めなかったら俺は天に召されていたかもしれない。
「じゃあ、行くか」
謝るフランの頭を撫でてから立ち上がる。
「どこに行くの?」
「散歩。血を飲んでから体がどんな感じになったか確認しておきたい。何より、暇」
体の事を考えて今日は紅魔館に泊まる事にしたのだ。もちろん、望には連絡済みである。
「私も!」
フランが手を挙げて訴えた。
「? いいけど……本当に歩くだけだぞ?」
「いいの!」
「……まぁ、いいか。よし! 行くぞ!」
何となく号令をかけた。
「おー!」
それにフランも笑顔で答えてくれる。
「ほら」
「?」
部屋を出る前に俺はフランに左手を差し伸べる。だが、フランは首を傾げてこちらを見上げて来た。意味が分かっていないようだ。
「手」
「手?」
それからフランは右手と左手を見比べて左手で俺の手を握った。
「それだと握手になるだろ? 右手だ」
「えっと、こう……ってええ!?」
やっと手を繋いでくれたが、今度は目を見開いて驚いてしまった。忙しい奴だ。
「こ、これって……」
「嫌だったか?」
フランを見ていると小さい頃の望と出かける時、手を繋いでいたのを思い出したのだ。
「ううん! 逆に嬉しい!」
首をぶんぶんと横に振って喜んでくれた。
「そ、そんなにか? ま、いいや。案内よろしく頼むわ。まだここの事、詳しくないし」
「まかせて!」
こうして、俺とフランは散歩に出かけた。
「そう言えばさ」
「何?」
30分ほど歩いた所で俺はふとある事に気付き、フランに声をかけた。
「俺たちって血、繋がってるよな?」
「……そう、なるね」
「て、事は……俺はフランの兄? いや、年齢的に弟か」
見た目は小さいがフランは吸血鬼。かなり、長生きしているはずだ。
「私の事を『お姉様』って呼ばなきゃだね」
「だが、断る」
自分より見た目が幼い子を『お姉様』と呼んでいると何だか危ない人に見えそうだ。
「じゃあ、私が『お兄様』って呼ぶ」
「……何で?」
「だって……兄妹だもん。体つきでお兄様の方が大人だもん」
フランはとびきりの笑顔でそう言った。
「……お好きなように」
溜息を吐きつつ承諾する俺。
「わかった」
えへへ、と微笑みながらフランが頷く。
「あら? お散歩?」
そこにレミリアがやって来る。
「俺とフランの血が繋がってると言う事は……レミリアとも繋がってるのか」
「『お姉様』とお呼び」
俺の呟きを聞いたレミリアはニヤリと笑ってからそう続けた。
「だが、断る」
「ま、そうよね。私の事は好きなように呼びなさい」
「俺の事もそれでいい」
「よろしく、響」
「こちらこそ、レミリア」
それから数秒間、お互いにお互いの目を見つめる。その沈黙を破ったのはレミリアだった。
「……本当に『お姉様』って呼ぶつもりは「ない」わよね」
遮って拒否する。それを聞いて少し残念そうにしているレミリアだった。
「あ、咲夜だ」
フランの声を聞いて前を見てみると咲夜が歩いていた。
「妹様、弟様? お散歩ですか?」
あちらも俺たちに気付き、問いかけて来る。
「はい、ストップ!!」
咲夜の言葉に気になる単語が紛れていたので止めた。
「どうかなされましたか? 弟様?」
首を傾げる咲夜。
「それだよ! どうして、弟様なんだ!?」
「いえ……お嬢様がそう呼べと」
レミリアは最初から血が繋がっている事に気付いていたようだ。
「私も不思議に思っていたんです。響様は女の子のはずなのに」
「……」
咲夜の言葉を聞いてフランが俺の顔を見る。
「……確かに。知らないと勘違いするかも」
「もう、慣れたよ」
溜息を一つ。ここで幻想郷では俺の溜息が大量生産される事に気付く。
「あ、すみません。仕事があるので」
そう言うと咲夜が目の前から消えた。時間でも操ったのだろう。
「足に包帯、巻いて無かったな」
咲夜は足に怪我を負っていたはずだ。でも、その傷跡すらなかった。
「能力を使えば一瞬で治るよ」
「……人間とは思えないぜ」
「それは言えてる。でも、どうして男だって言わなかったの?」
目を細めて俺の顔を覗き込んで来るフラン。何か勘違いしているようだ。
「……紫に口止めされてる」
「え? どうして?」
「弾幕ごっこ」
「……あ、なるほど。確かに言えないね」
「もう、嫌だ」
溜息がまた生産される。
「それにしても……今、思えばお兄様の骨もすぐに治ったよね」
「まぁ、吸血鬼の血が少量だけ流れてるからな」
「そうだったね」
「「……」」
会話が途切れ数秒間、沈黙が流れた後ほぼ同時に歩き始めた。
「うわ……もう、直ってる」
咲夜と別れてから更に30分後、俺は修復された図書館の扉の前にいた。
「あれだけ盛大に暴れたのにね」
「ああ、普通2~3か月かかるはずだけど……幻想郷じゃ常識に囚われちゃいけないんだったな」
早苗の言葉を思い出し、苦笑する。
「そう言えば、霊夢たちって帰ったの?」
ふと気になってフランに質問した。
「わかんない」
「だよね」
そう言いながら図書館の扉を開けた。
「邪魔すんな!」
「泥棒はいけません!」
「泥棒じゃないって! 借りるだけだ! 私が死ぬまで」
「それが泥棒なんです!!」
大量の本によって大きくなった袋を担いで箒に跨っている魔理沙と神風を撒き散らす早苗が図書館で弾幕ごっこをしていた。
「いたね」
苦笑してフランが呟く。
「うん、いたわ」
溜息を吐いてその下を見ると霊夢とパチュリーがお茶を飲んでいるのを見つけた。
「おっす」
「響? もう、動けるの?」
こちらに気付いた霊夢は不思議そうに問いかけて来る。
「ああ、吸血鬼の血をなめちゃいけねーぜ」
「……その様子じゃもう大丈夫そうね。じゃあ、私たちはそろそろ帰ろうかしら」
「あれを止めるのか?」
「あれが終わってから。止めるなんて面倒じゃない」
もう一度、二人を見た。
「くっ……八卦炉があったら」
ここであれをぶっ放すつもりなのだろうか。
「くっ……室内だから風のコントロールが難しいです。出力を抑えないと……」
あれだけの暴風で出力を抑えているらしい。
「終わりそうにないな」
二人が同時にスペルカードを取り出した所で霊夢に向き直る。
「もうしばらくかかるわね。お茶」
「はい! ただいま!」
霊夢がティーカップをクイッと傾けると小悪魔が慌てて飛んで来た。パチュリーは本を読んでくつろいでいてこちらを見ようともしない。
「おっと!」
その時、魔理沙が一冊の本を落とす。その本は真っ直ぐ俺の頭に向かって落下して来た。
「危ないな……全く」
このままでは脳天に直撃してしまう。それを阻止する為に空中でキャッチしようと手を伸ばした。
「お兄様、ダメ!」
「え?」
近づくにつれ、本のタイトルが読めるようになってわかったのかフランが慌てて叫ぶが遅かった。すでに俺の手に本は収まっている。
「なっ!?」
その瞬間、本から暴風が吹き荒れる。その威力は早苗の神風を凌駕していた。近くにいたフラン、霊夢、パチュリーは机ごと吹き飛び、空中にいた魔理沙と早苗は暴風に巻き込まれ遠くに飛んで行った。だが、俺だけはその場に留まっている。いや、固定されていた。
(本に引き寄せられてる!?)
まるで俺以外の人を遠ざけたようだ。本は空中に留まっており、一人でにパラパラとページが捲られる。
『……ジュシンチュウ』
「ッ!?」
頭に直接、音声が響いた。
『アナタニ、テキゴウ、スル、マドウショ、ヲ、コノ、トショカン、カラ、エランデ、イマス』
「何なんだよ。これ」
俺はただ呆然とするだけだった。
「ん~! んん!!」
本に生き埋めにされた私は足をブンブンと振って脱出しようとする。
「ほら、落ち着きなさいって」
それを霊夢が引っ張り上げてくれる。助かった。
「ありがと」
「それほどでも」
「まああああありいいいいいさああああああ!!」
その時、パチュリーが大声で魔理沙を呼んだ。喘息なのに大丈夫なのだろうか。
「いたた……何が起きたんだ?」
「わかりませんよ……」
すぐ近くに魔理沙と早苗がいた。先ほどの暴風で墜落させられたらしい。
「魔理沙! あの本、どこから持って来たのよ!?」
「あの本?」
「あれよ、あれ!」
パチュリーが指さした方向には魔導書の傍から離れないお兄様の姿があった。
「ああ、あれは……あそこの扉の奥に」
魔理沙の視線の先にあった部屋のドアは少しだけ開いていた。
「そこは禁書を封じ込めていた場所よ!! 何してんのよ!」
「そうなのか? 入っても何も罠がなかったらからてっきり」
「え? 作動しなかったの?」
「このとおりピンピンしてるぜ」
腕を曲げて胸を張る魔理沙。
「もしかして狂気が暴れた時、魔方陣に亀裂でも入ったのかも……」
「パチュリー、あの本はどんな本なの?」
先ほどから気になっていた事をブツブツと何かを呟いているパチュリーに問いかける。あの本から変な力を感じたから注意したけど具体的にどんな魔法が発動するのかわからなかった。
「あれは、『インデックス』って言う禁書で使用者に適する魔導書を見つける為の本なの。でも、適する本がなかったら使用者の魂を喰らう。危険な本よ」
「この図書館にお兄様に適する本はないの?」
「お兄様? そうね……響には確かに魔力はある。ただ、それは本当に微量なの。ギリギリ、弾を一つ発射出来るぐらいね」
一瞬、目を見開いたパチュリーだったが私がお兄様を『お兄様』と呼ぶ理由がわかったらしく、私の質問に答えた。
「少ないね」
それを能力で補っていたらしい。だが、どうしてだろう。お兄様からは魔力の他に何かあるような気がする。
「ちょっと待って。響は霊力も持っているわ。それにさっきから妖怪の気配がするんだけど」
パチュリーの言葉を否定する霊夢。
「あ、私も気配を感じます。丁度、響ちゃんがいる場所から」
皆の話をまとめるとお兄様は魔力、霊力持ちで何やら妖怪の気配もあると言う事らしい。
「一気に人間から遠のいたね」
「今はそれどころじゃないの! 例え、本が見つかってもその本が禁書だったらどうするの!」
「どうなんですか?」
今度は早苗が質問する。
「また暴走するかもしれない」
パチュリーの発言に皆、顔を引き攣らせた。狂気のトラウマが残っているようだ。
「じゃあ、私の能力であの本を壊せば……」
「そうすると今度はあの本が暴走するわ。禁書ってそう言う物なのよ」
「なら、どうすんだよ!」
そう叫びつつ魔理沙がパチュリーに詰め寄る。
「とにかく近づける所まで近づきましょ?」
パチュリーはそう言うとお兄様の方へ歩いて行った。それを見て私たちは後を追う。
第39話 魂
『ジュシン、カンリョウ。タダチニ、ホン、ヲ、コチラニ』
「うわっ!?」
本の声が頭で響き、急に体が浮き始める。本も一緒に上昇していた。
「な、何が……」
『テキゴウ、スル、ホン、ハ、ゼンブ、デ、120。ソノ、ナカ、デ、イチバン、アナタ、ガ、モトメ、テイル、ホン、ヲ、センタク、シマス』
そう言った矢先、図書館の本棚から本が勝手に飛び出し、こちらに飛んで来る。次から次へと。その本たちは俺の周りをぐるぐると回る。まるで、それは踊っているようだった。
『120、カラ、100』
頭の中に声が響く。それに応えるように20冊の本が落ちて行った。
『100、カラ、60。60、カラ、20』
どんどん、本が落ちていく。
「響!」
その時、後ろからパチュリーの声が聞こえる。振り返ると遠い所で宙に浮いていたパチュリーの姿を確認する。他に霊夢、魔理沙、早苗、フラン、小悪魔もいる。
「これ! 何なんだよ!」
「その本は貴方に適する本を探しているの! 急いでその竜巻の中から脱出しなさい! そうすれば本が対象を失い、この魔法が解かれる!」
(竜巻?)
よく、見れば目の前の本と俺を中心にし、竜巻が発生している。だが、体当たりしても脱出、出来そうにない。
『20、カラ、12』
「早く! 禁書が選ばれたらまた貴方は暴走するかもしれない!」
「それはごめんだ!」
ならばと左腕に括り付けられているPSPからイヤホンを伸ばそうと手を伸ばす。
「……あれ?」
見れば、左腕には何もない。確かに俺は部屋を出る時、ホルスターを装着したはずだ。だが、左腕には何もない。
「お兄様! これ!?」
竜巻の外でフランがぶんぶんと手を振っている。その手の中にPSPがあった。本が風を巻き起こした時に弾かれてしまったようだ。
「ああっ!? パチュリー、ゴメン! 俺、何も出来ねー!」
「はぁっ!?」
『12、カラ、6』
残り6冊となった魔導書は高速で回転している。
「皆! 攻撃して竜巻に穴を開けるわ! 響はその穴から逃げなさい!」
「まかせたぞ!」
そう叫ぶと一斉に竜巻への攻撃が始まった。だが、魔理沙のレーザーでも竜巻はびくともしない。フランは右手を握ろうとしているが元々、竜巻は現象。『目』などあるはずがない。
『ジ……ジジ……モンダイ、ハッセイ。シキベツ、ヲ、イソギ、マス。6、カラ、1』
「ッ!? まずい!」
パチュリーの叫びと同時に5冊の本が落ちた。残った1冊が俺の目の前に現れる。
『さぁ、これがお前の本だ。手を差し伸べ、その本を手に取り、お前の好きな物を守れ』
急に本の滑舌が良くなった。識別のせいで言語の方は疎かになっていたらしい。
「え?」
『お前が求めたのは『守る為の力』。私も見ていたぞ? お前が狂気に乗っ取られ、暴走するのを』
「……」
『そのせいでたくさんの人が傷ついた。それをお前は心のどこかで悔やんでいる』
悔しいが本の言っている事は当たっていた。
『そして、また無意識にお前は力を求めた』
「力……」
『そう。この本は今のお前にピッタリな本だ』
本がそう言って閉じられる。そのまま、墜落した。残ったのは俺と選ばれた本だけだ。
「響! 駄目!」
霊夢の声が聞こえたが今の俺にはどうでもよかった。
「守る力……」
ゆっくり、本に手を伸ばす。
『我を求めるか?』
目の前にある本から声が聞こえる。声質から年老いた男。
『我はこの禁書に封じ込められた魂。お主の魂を喰らい尽くすつもりぞ?』
「……大丈夫。俺の魂は普通じゃない」
今回の異変で俺の魂は生まれ変わったのだ。
『何?』
本が聞き返して来たが無視。
「お前の部屋を用意する。おいで。俺は全てを受け入れる。だから、お前も俺を受け入れろ」
そして、本に触れた。
「……なるほど。こういう事か」
「そう、こういう事」
白い空間の中、俺と本の中にいた魂が対峙する。魂は今、人型になっていた。その姿は燃えるような目と赤髪を持つ、赤髭のおじさんだ。
「ふむ。それで? お主は我を倒すつもりか?」
「倒すなんてしねーよ。少し、手懐けるだけだ」
「我をペット扱いとはお主、死ぬぞ?」
「誰も一人でお前と戦うとは言ってねーぞ」
それからすぐに俺の後ろを見ておじさんは目を見開いた。
「……」
目を開けると図書館の天井が見えた。更にその周りに霊夢たちが心配そうに俺を見ていた。
「お兄様?」
「大丈夫。暴走しないから」
フランの頭に手を乗せながら体を起こす。
「本当に? あれは禁書だったでしょ?」
パチュリーは俺が先ほど触れた本を抱えて、問いかけて来た。
「ああ、その中にいた魂と戦って勝った」
「はぁっ!? 確かあの中にいたのって……」
目を見開いて大声で驚く紫パジャマ。
「まぁ、いいんじゃね? こうやって、無事だったんだからよ」
「で、でも……」
まだ納得のいっていないパチュリーを放置して立ち上がる。それから体を捻ったり、屈伸したり動かしてみた。体に異常はないようだ。
「……」
「ん? どうした、霊夢」
ジト目で俺を凝視する霊夢に質問する。
「何か……増えた」
「は?」
「もう、貴方の持ってる霊力やら魔力やらがごちゃごちゃしてて、何があって何がないのかわからないのよ。でも、さっきはなかった何かが貴方の中に生まれたのは確かね」
「ふ~ん……あれ? 俺、霊力持ってるの?」
「少しね。ギリギリ、霊弾を1つ飛ばせるくらいかしら?」
「少なっ!?」
「因みに魔力もそれぐらいだから」
パチュリーの言葉に絶望する。今まではコスプレの力で霊力や魔力を水増ししていたのだろう。
「まだあるわよ? なんか妖怪の気配がするの。貴方から」
「ああ、それは知ってる」
「え? 知ってるんですか?」
早苗の問いかけに頷く。
「だって俺、妖力持ってるもん」
それは魂の中で聞かされた。
「あ、そりゃ妖怪の気配もってええええええええええ!?」
魔理沙が驚く。
「何だよ。そんなに驚く事ねーだろ?」
「驚くだろっ!? どうしたんだ? 人間、やめたのか?」
「まだ人間だ! 妖力も霊力や魔力と同じぐらいだからな」
「……弱いな。お前」
「うるせー」
魔理沙の発言に不機嫌になる。自覚しているのだ。
「それにしても……急にとんでもない存在になったわね」
「自分でも吃驚だよ」
パチュリーに返事をしつつ、図書館の扉に向かう。
「どこ行くの?」
霊夢が首を傾げながら質問して来た。
「部屋に戻るよ。色々あって疲れた」
「あ、待って! 私も」
そして、フランと一緒に図書館を後にした。
「ねぇ?」
「ん?」
部屋に戻る途中の廊下でフランが話しかけて来る。
「あの本にいた魂って今、どこに?」
「秘密だ」
まだ、話すべき時じゃない。そう思った。
「え~!」
「いつか話すから」
「ぶ~」
頬を膨らませてフランは拗ねた。その姿が可愛らしくて思わず、笑ってしまった。
「あ! どうして笑うの!」
「い、いや、かわいいから。くっ……くくく」
そんな俺を見て更に頬を膨らませるフラン。
「さて……少し寝るから晩飯、出来たら呼んでくれ」
俺の部屋に着き、ドアノブに手をかけながらフランに言う。
「むぅ……わかった」
「じゃあ、お休み」
「うん。お休み」
今は午後4時。まだ一日も経ってないと思うと変な感じがする。晩飯までだいたい2~3時間ほどあるはず。それだけあれば十分だ。俺はベッドに入り、目を閉じて意識を集中する。自分の部屋に帰るように魂のドアを開く。そんな感じだ。
「……ふう」
目を開けるとマンションの一室のような部屋にいた。家具などない。殺風景だ。いや、電話だけ床に直接、置いてある。
「あら、お帰り」
「俺はこちらの世界の住人だったか?」
キッチンに吸血鬼がいた。服は俺の学校の制服だ。しかも、女子用。
「もう、人間とは言えないだろ?」
「誰のせいだと思ってるんだよ」
ベランダから狂気が部屋に入って来る。こちらも女子用の制服を着ている。
「なぁ、この部屋どうにかなんないの? 家具とか」
吸血鬼に文句を言う。
「ここは貴方の魂なんだから自分で模様替えしなさい」
「……わかったよ」
吸血鬼に言われ、思い浮かべる。テレビ、ベッド、テーブル、ノートパソコン、ソファ。それらを頭の中で配置。
「まぁ、いいんじゃないか?」
「うわ……本当に出て来た」
狂気の声に目を開けるとイメージ通り、家具が出現していた。
「これでゆっくりできるわ」
「自分の部屋に帰れ」
「だって、ここの方が広い」
狂気が腕を組んでそう言い放った。
「この体の所有者は俺だもん。そりゃ、部屋も広いよ」
「そりゃそうだけど、貴方が勝手に新しい住人を増やしたから私たちの部屋が小さくなったのよ」
「あ、そうなの?」
そこまで話していると玄関の方からチャイムが鳴った。
「あ、は~い!」
「お前が出るんかい!」
吸血鬼が当たり前のように玄関に向かうのを見てツッコんでしまう。その姿は主婦を思い出させた。
(あれ?)
ふと、気付く。ここは魂。誰がこんな所、訪ねて来るのだ。
「どちら様ですか~?」
そう言いながら吸血鬼は玄関のドアを開けた。
響さん、色々な力を持ってますね……
それについては次の話で説明します
第40話 同居人
「「「「……」」」」
ここは俺の魂の中。更に詳しく言うと魂内での俺の部屋だ。そこで俺を含めた4人は黙ってテーブルを囲んでいた。吸血鬼が入れてくれた紅茶はとっくの昔に冷めている。
「さて……一つ、質問いいだろうか?」
沈黙を破る為に声を発する。俺の右にいる吸血鬼と左にいる狂気が同時に頷く。彼女らも同じ質問があるはずだ。
「何だね?」
そして、俺の真正面にいる奴が返事をする。その姿は俺と全く顔が同じだが、髪が赤い。髪型はポニーテール。胸は吸血鬼と狂気の間で身長は俺より5cmほど高い。俺が167cmだから172cmぐらいか。
「誰?」
「そう言うと思っておった。我は先ほどお主らに倒された魂だ」
「「「いやいやいや」」」
俺たち三人は首を振る。あり得ない。
「まだ信じぬか。しかし、どのように説明していいのやらわからぬ」
腕組みをして唸る、女。
「あ……その前にいいかの?」
「何?」
吸血鬼が首を傾げる。
「この魂は一体、どんな構造しているのか教えてくれぬか? こんな魂、見た事がないのでの」
「いい? この魂を一つの家だと考えて。その中でこの家の主。つまり、これね」
俺を指さす吸血鬼。
「俺はこれ扱いかよ!」
「いいから黙って。主である彼の部屋はここ。この空間で一番、大きな部屋に住んでいるわ。まぁ、大家さんとでも思って頂戴」
「うむ……わかってきたぞ。この魂はいくつかの部屋に分けてそれぞれ、割り当てられた部屋で生活しているわけだな?」
女の言っている事は合っている。今回の異変前までの魂もいくつかに分けられていたのは同じだが、それぞれが干渉出来ないように分厚い壁で区切っていた。イメージで言うとそれぞれの家で暮らす。家は近所にあるのだが、近所付き合いは全くない。
しかし、異変後は吸血鬼も言ったように一つの家で暮らしている。部屋は別々だが、一緒の家に暮らしているのだ。何らかの付き合いはある。
「この形に落ち着くのに色々な事があったけど私は気に入ってるわ。ね? 狂気?」
「ふん」
吸血鬼の問いかけを狂気は鼻で笑って無視した。
「その態度はないんじゃない? 封印されると勘違いしてこの体をぶっ壊したくせに」
「し、仕方ないだろ!? お前があんな事を言うから!」
吸血鬼が言った『私と一緒に狂気を封印しなさい』は狂気にとってそれほどの言葉だったらしい。
「私だってまさか、こんな方法があるなんて思わなかったのよ。響に感謝ね」
「……」
狂気は黙って俯いてしまった。
「そんな事より! 魂について話した。次はお前の事だ」
「おお、すまん。忘れておった。まずは我の正体から明かそうかのう」
そう言いつつ、女は紅茶を啜る。それを見て紅茶の存在を思い出し、俺たちもカップを傾けた。水のように冷たい。
「我が名はトール。神じゃ」
「「「……はい?」」」
意味が分からなかった。トール? 神? 確か、北欧神話に出て来たと記憶している。
「トールってあの?」
気になったので本人に確認してみる。
「あのがどれかはわからぬがトールじゃ」
「何か、ハンマーみたいな武器、持ってるか?」
今度は狂気が質問した。
「ハンマー? ああ、これか」
籠手を装備し帯を腕に括り付けてから小ぶりのハンマーを取り出す。
「ほ、本物?」
最後に吸血鬼が問いかける。
「偽物のはずがないだろう。ずっと、持っていたのだからの」
「「「……」」」
女――トールの言っている事は本当のようだ。うろ覚えだが、あのハンマーは時に真っ赤に焼けていると言われ、あの籠手なしで握れないそうだ。
「どう思う?」
だが、一人では決断する事は出来ない。そこで二人を部屋の隅に呼び寄せて作戦会議が始まった。
「多分、本物ね。あの帯はきっと、メギンギョルズよ」
「何それ?」
吸血鬼の言った中に聞き覚えのない単語があった。
「『力の帯』と言う意味であの槌を振るう為にはあれが必要なの。あの籠手はヤールングレイプル。『鉄の手袋』って意味よ」
「それにあの槌。柄が短い。あれは『ミョルニルの槌』だ」
狂気が小声でそう言った。
「それにトールは赤毛だったはずだ。やっぱり、本物か……でもな?」
「ね?」
「ああ」
まだ、俺たちは納得していない。理由は簡単。
「なぁ? トール?」
代表して俺がトールに聞く。
「何だ?」
「どうして……女なの? 最初に見た時はおじさんだったじゃん」
そう、トールは姿形が変わってしまっているのだ。
「これか? うむ、我も最初は驚いた。だが、お主らを見て理解できたぞ?」
「で? 真相は?」
吸血鬼が質問する。
「郷に入っては郷に従え。つまり、響の魂に取り込まれたのならそのルールに従えと言うわけだ」
「……ちょっと待て」
トールに掌を見せて止める。
「何? 俺の姿に似るのがこの魂のルールなの?」
「みたいじゃの? 何故かは知らぬ」
「じゃあ、お前らも他の魂に行ったら別の姿に変わるのか?」
吸血鬼と狂気の方を見て呟く。
「どうだろう? 私はずっとこの魂にいたから分からないわ」
「フランドールの魂にいた時は人間の姿じゃなかったぞ? 私は」
吸血鬼は首を傾げたが狂気はトールの言っている意味が分かったようだ。
「じゃあ、どんな姿だったんだ?」
「なんて言うのだろう? なんか影みたい感じだな」
今の姿を見て納得など出来るはずがない。
「へ~」
だからと言うわけではないが流した。狂気もそれで良かったのか紅茶を飲む。
「まぁ、何だ? これからよろしくな、トール」
「うむ。あの戦いで我はお主について行くと決めた。こちらこそよろしく頼む」
がっちり握手してそう言い合った。
「……一つ、質問があるの」
「ん? 何じゃ?」
吸血鬼が深刻そうな表情を浮かべてトールを見た。
「貴方……力の種類は何?」
「力の種類?」
「例えば、魔力とか霊力とかよ」
「ああ、神力じゃ。神様じゃからのう」
「「「ッ!?」」」
トールの発言で俺たちは目を見開く。
「何じゃ? 神力で何かまずい事でもあるのか?」
「ま、まぁな……えっと、まず俺が持ってるのは霊力」
掌を上に向けて一つの弾を作り出す。色は薄い赤。先ほど、霊夢に言われて気付いたがきちんと扱えるようだ。
「そして、私は魔力」
吸血鬼も俺と同じように弾を作る。色は薄い青。
「妖力」
狂気の作り出した弾は薄い黄色。
「……我は神力」
トールは真っ白な球を作り出した。沈黙が流れる。4人が別々の力を持っているのだ。
「で、でも! 我の力を響に渡さなければ……」
「それがね? この魂の形を留める為には響に少しだけ力を預けなきゃいけないのよ。家賃の代わりにね」
「な、なんと!」
「そのせいで響の霊力は少なくなった。いえ、本来なら霊力が通るべき道を私の魔力や狂気の妖力が横取りしてしまうから本気を出せないの。それは私たちにも言える事で普段通りの力を出せない」
だから、霊夢にごちゃごちゃしていると言われた。体一つに霊力、魔力、妖力、神力。そりゃあ、ごちゃごちゃしているに決まっている。
「能力なしじゃ飛べもしない」
狂気が溜息を吐く。
「ふむ……どうにか出来ぬのか?」
「無理ね。まぁ、響の能力を使えば戦えないわけじゃないからいいんだけど?」
「数分で能力が変わる珍しい能力だ」
「お前ら、その能力を俺が嫌ってるのを知ってて言ってるだろ!?」
「あら、私は好きよ? 色々な服が着れるから」
含み笑いをする吸血鬼。何を言っても言い包められるので無視する事にした。
「とにかく、それは今後の課題として今日の所は解散。俺は戻る」
「響、またね」「じゃあ」「うむ、頑張って来い」
それぞれがあいさつを言い、俺は目を閉じた。
「「……」」
目を開けるとフランの顔がドアップだった。ジーッと俺の顔を覗き込んでいた。
「うおっ!?」
「あ? 起きた?」
「び、吃驚するだろ!?」
「だって、いくら呼びかけても起きなかったんだもん」
そりゃ、魂の方に意識が飛んで行ったから外の音など聞こえるはずがない。
「晩御飯出来たって」
「ああ、すぐ行く」
「早く~!」
「わかったから引っ張るなよ!」
こうして、俺の魂に新たな住人が現れた。
霊力、魔力、妖力、神力を持っていますが、響さんは人間です
第41話 お届け物
狂気異変から1週間が過ぎ、夏休みも中盤に差し掛かる。その間にもいくつかの依頼が入って来た。例えば、荷物運びや畑仕事の手伝い。あまり収入は良くないがコスプレしなくてもいいので嬉しい。そんな頃にとある依頼がやって来た。
「えっと……香霖堂?」
幻想郷の上空。天狗の姿で俺はスキホの画面を凝視していた。この前、紫に幻想郷の地図を取り込んでもらって本当によかった。ただ、一度も行った事がないのでスキマの力は使えない。普段は行きたい場所の風景をイメージしながら能力を使っているのだ。
「あっちが博麗神社でこっちが魔法の森だから……あれか?」
魔法の森に入る手前に一軒の家が建っているのを発見した。急降下してその家の前に着陸する。
「……カオスだ」
看板に『香霖堂』と書かれており、その下には入り口。しかし、その周りにたくさんのガラクタが所狭しと置いてある。
「よ、よし……」
イヤホンを抜いてドアに手をかけ、一気に開けた。
「ちわーす。万屋でーす」
「お? 来たか」
中も足の踏み場所もないほどガラクタが置いてある。その奥に特徴的な青い服を着た男がいた。
「えっと……」
「ああ、自己紹介が遅れたね。僕は森近 霖之助。この店の店主だ」
「あ、音無 響です」
向こうの方が年上っぽいので敬語を使う事にする。
「早速なんだけど、頼めるかな? これを魔理沙に届けて欲しい」
森近さんが取り出したのはミニ八卦炉だった。
「八卦炉? どうしてこれがここに?」
狂気異変で俺が壊してしまったらしい。全く、覚えてないが。
「修理したんだよ。君に壊されたからね」
「うっ……もしかしてこれ、作ったの森近さんですか?」
「うん。そうだよ」
「ごめんなさい! 壊してしまって!」
頭を下げて謝る。もちろん、悪気があったわけではないが壊してしまったのには変わりない。
「大丈夫だよ。緋緋色金の在庫もあったし」
「ヒヒイロカネ?」
八卦炉は伝説の金属で出来ているらしい。
「まぁ、そんな事より頼めるかい?」
「魔理沙に届ければいいんですね。わかりました」
八卦炉を受け取ってポケットに捻じ込む。
「そうだ。報酬だけど、この店の中から一品だけ好きな物をあげるよ。でも、非売品の物はなしだ」
「はぁ……わかりました」
なんか腑に落ちない。どうして、俺に依頼したのだろう。魔理沙ならこう言う所にも来そうだ。
「いや~実は魔理沙が最近、来なくてね。3日も経ってしまったんだ。だから、一刻も早く渡さないとね? これなしじゃ弾幕ごっこ、出来ないし」
俺の表情を見て森近さんが教えてくれた。
「ああ、なるほど。では、行ってきます」
「頼んだよ」
「はい!」
ドアを開けてイヤホンを耳に差す。
「移動『ネクロファンタジア』!」
スペルを唱え、紫の衣装を身に纏う。
「永遠『リピートソング』!」
続いて、紫の曲をループさせるスペルを発動。そして、懐から扇子を取り出し、横に一閃した。すると、スキマが嫌な音を立てながら開かれる。
「よいしょっと……」
スキマを潜り、目的地に到着する。
「あら? どうしたの、響?」
出た場所は博麗神社だ。魔理沙はよくここに来る。一番、可能性が高いはずだ。
「よう、霊夢。魔理沙、いる?」
「魔理沙? 今日は来てないわ」
どうやら、はずれだったらしい。
「むぅ……他に魔理沙が行きそうな場所とか知らない?」
「そうね……香霖堂か紅魔館ね」
「さんきゅ。帰り、寄るわ」
俺は依頼を熟した後、少し博麗神社に寄ってお茶を飲んでいる。何故か、落ち着くのだ。
「わかった」
霊夢の返事を聞いた所でスキマを開き、紅魔館の図書館に出る。
「パチュリー、魔理沙いない?」
椅子に座って読書しているパチュリーに質問した。
「来てもすぐに帰るけどね。まぁ、今日は来てないわ。もっと言うと狂気異変から来てない」
ここもはずれだ。
「どこにいるんだ? あいつ」
「何? 仕事?」
頭を掻いて溜息を吐いた所にパチュリーは聞いて来た。
「八卦炉を届けにな」
「直ったのね……とうとう」
「……何か、直って欲しくなさそうだな」
「だって、また本、盗りに来るんだもの」
「なるほど……」
魔女にも悩みはあるようだ。
「おに~さぁま~!!」
「ぐふっ……」
フランが俺の背中にタックルをかまし、その拍子で背骨の骨が折れる。更にその衝撃で折れた骨が背中を突き破り、外に出て来た。が、本能的に霊力を流して再生させる。
「うわ~。もう治った」
それを見ていたフランが目を見開く。
「フラン……俺を殺す気か?」
「全然。お兄様ならこれぐらいで死なないでしょ?」
俺の治癒能力はレミリアやフランの数十倍、高い。その為、骨が折れても数秒で治ってしまう体になってしまったのだ。まぁ、治す為に霊力を消費するのだが他の人はまだ誰も知らない。
「そりゃそうだけど……魔理沙、どこにいるか知らね?」
「魔理沙? う~ん……最近、来てないからね。でも、博麗神社か香霖堂って場所にいると思う」
「詰んだか……さんきゅ」
フランの頭に手を乗せてから少し撫でてからスキマを開く。
「また来てね~!」
「そん時は前から来てくれよ?」
後ろから来られては対処出来ない。
「わかった! 全速力で突っ込むね!」
「それをやめれば一番いいんだけど……」
しかし、フランに何を言っても意味がないと思い、溜息を吐きながらスキマを閉じた。
「さて……」
出た場所は幻想郷の上空。俺は落下しながら考える。魔理沙が行きそうな場所はもうない。
「いや、あいつの家に行ってないか」
足元にスキマを展開し、魔法の森にある魔理沙の家にやって来た。一昨日、魔導書の整理を手伝ったのだ。
「魔理沙~!」
ドアを叩きながら名前を呼ぶ。その後、すぐに何かが崩れる音が続いたが本人が現れる事はなかった。
「どうすっかな……あいつ、人里には近づかないみたいだし。他の場所は知らねーし」
数分間悩んだ結果、飛んで闇雲に探す事にした。
「速達『風神少女』!」
紫の服から射命丸の服にチェンジ。漆黒の翼を大きく広げ、大空に舞い上がる。
「さて……どこに行くか」
スキホを取り出し、現在地を確認。
「妖怪の山にでも行くか……」
そうと決まれば早い。全速力で妖怪の山を目指す。
「いない……」
妖怪の山に入る直前に白髪で獣耳を持った天狗に止められた。どうやら、妖怪の山に入って来る人間に忠告しているらしい。そこで魔理沙の事を聞くと今日、魔理沙はおろか人間一人、見ていないそうだ。
「次は……ん?」
スキホを開いて行き場所を決めていると遠くから甲高い声が聞こえる。そちらを見ると小さな影が見えた。
「何だ?」
その影はどんどん大きくなる。それに伴い、鳥が羽ばたく音が聞こえる。何やら嫌な予感がした。
「ま、まさか……」
嘴が大きく、耳もでかい。目は小さく、体の色は橙色だった。例えるなら某狩りゲームに出てくる怪鳥。
「てか、まんまじゃねーかああああ!!」
怪鳥は俺を目指して飛んでいる。食うつもりらしい。
「く、くそ!!」
急いで方向転換。人里へ逃げる。人里には妖怪の類はほとんど近寄らない。それに慧音に会えれば、一緒に戦う事が出来る。向こうも相当、速いがこの姿なら逃げ切れるはずだ。だが、人生は甘くない。
~蠢々秋月 ~ Mooned Insect~
触角が生え、服装が男の子っぽい黒いズボンに白いシャツ。更にマントを羽織っている。宴会の時に会ったリグルの姿だ。
「し、しまっ――」
リピートソングを発動するのを忘れていた事に気付く。そして、反射的に後ろを見ようと首を動かした。
第42話 怪鳥
俺は目の前の光景に唖然とした。本来、後ろには某狩りゲームに出てくる怪鳥の姿があるはずだ。だが、その影は全くなくその代わりに――。
「う、嘘……」
大きな火の弾があった。きっと、あの怪鳥が吐き出したのだ。ゲームでもペッペと吐き捨てていたのを覚えている。そんな物が現実で迫っているのだ。恐怖しない方がおかしい。
「がっ……」
どうする事も出来ず、無防備な背中に直撃。激痛で顔が歪んだ。
例え、自己治癒が優れていても痛みはある。更に回復させる為には俺自身の霊力が必要らしい。しかし、コスプレで霊力を水増ししても回復に使えないのだ。それだけならまだしも、先ほど紅魔館で背骨を治した時にほとんどの霊力を使い果たしてしまっている。背中に大火傷を負った俺は頭から墜落。上で怪鳥が勝利の雄叫びを挙げているのを聞きながら意識を手放した。
「くっ」
背中に鈍い痛みが走り、目を覚ます。どうやら落ちた時、木の枝がクッションとなってくれたおかげでそれほど怪我はしていなかった。背中の火傷を除けばの話だが。
「ふんっ……」
無理矢理、霊力を背中に送り込み回復させる。案の定、霊力が足らず完全回復は出来なかった
(どうすっかな……)
頭上で怪鳥が羽ばたく音が聞こえる。上からでは俺の姿は木が邪魔で見えないようだ。このまま隠れていれば飽きてどこか行くかもしれない。そう思っていたら近くに火球が落ちて来た。この森を焼き払うつもりだ。
「まぁ、そうだよな!」
逃げる為に走ろうとしたがその拍子に治り切っていない背中から血が溢れだす。この状況で血まで流れ切ってしまえば俺は本当に死んでしまう。
「まずっ!」
背中に気を取られ、足がもつれてこけてしまった。
「っ!」
その音を聞きつけた怪鳥が目の前まで降下してきた。完全に追い詰められる。着地した怪鳥はギロリとこちらを睨み、鋭い嘴を俺に向けた。喰うつもりらしい。
(死んだ)
今更、立ち上っても火の弾を吐き出される。つまり、俺の結末は死。最期に出来た事と言えば、望に『ゴメン』と心の中で謝った事くらいだ。
~有頂天変 ~ Wonderful Heaven~
だが、喰われる直前に曲が変わった。服は上が白くてそれがエプロンのようにスカートの途中まで侵食している。その下は青だ。白と青の境界線にカラフルなひし形の模様が並んでいる。頭には黒い帽子。飾りとして桃がくっ付いている。リグルに変身した時もそうだったがどうやら、紫から貰った幻想郷の住人の名前が書いてあるスペルカードは弾幕ごっこの時にしか出て来ないらしい。しかし、今更コスプレが変わってもどうする事も出来ない。少し驚いた様子で怪鳥は俺を見ていたがすぐに嘴を振り降ろした。
――ガキーン!
金属がぶつかり合った時のような音が森に響く。それからすぐに嘴に皹が入った怪鳥が絶叫した。
「な、何が……」
俺の体には傷一つ、付いていない。確かに怪鳥の嘴は俺の体を貫いたはず。だが、貫通せずに嘴が砕けたのだ。怪鳥は俺を睨み、火球を吐き出す為に頭を引いた。焼き殺すつもりらしい。
「させっかよ!!」
うつ伏せに倒れた状態から腕立て伏せの要領で上体を起こし、地面を蹴った。俺の体は弾丸のように怪鳥に突進し、頭からぶつかった。
「――ッ!?」
怪鳥の体はくの字に折れ曲がり、真後ろに吹き飛ぶ。怪鳥は木々をなぎ倒し、2回ほどバウンドしてやっと止まった。だが、こちらは頭突きの反動で耳からイヤホンが抜けてしまい、変身が解けてしまう。更に背中がズキズキと痛む。
「はぁ……はぁ……」
肩で息をしながら何とか立ち上がる。向こうもフラフラしながらも翼を広げ、飛んだ。上から攻撃して来るつもりだ。そうなれば戦いづらくなってしまうのは目に見えていた。
(ここで倒さないと……よし)
ポケットに入っていたミニ八卦炉を取り出し、怪鳥に向ける。俺の霊力はもうほぼゼロ。変身していたら、上空に逃げられる。魂の住人たちから貰っている魔力や妖力、神力はまだ使いこなせない。だが、使いこなせないが使えないとは限らない。
「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
出鱈目に八卦炉に力を込める。魔力なのか妖力なのか、はたまた神力なのかそれすらもわからない。しかし、確実に八卦炉に力が充電されて行く。怪鳥が危険を感じ、攻撃するのをやめ、俺に背を向けて逃げ出す。
「逃がすか!!」
八卦炉を地面に向け、発射。出力を抑えていたので魔理沙ほどの威力はなかったが地面は抉れた。
「くっ!?」
作用反作用の法則により、俺の体が高く上昇する。そして、今度は怪鳥とは真逆に放出。先ほどと同じようにレーザーをエンジンとし、怪鳥を目指す。
「ッ!?」
チラッと後ろをみた怪鳥は目を見開き、更に速度を上げた。それでも俺の方が速い。
「これでも喰らえッ!!」
放出を止め、八卦炉を怪鳥に。八卦炉を持っている右腕を左手で支える。
「魔砲『ファイナルスパーク』!!」
スペルカードはないが宣言し、全力で八卦炉の中に込めた力を発射する。極太レーザーは真っ直ぐ、怪鳥に向かって進み、直撃した。レーザーに押され、怪鳥は遠くの方へ墜落。
「うおっ……マジか!!」
それだけなら良かったのだが、八卦炉が暴走し止められなくなってしまった。きっと、俺が出鱈目に力を込めたせいだ。魔力と妖力、神力が混ざっているのだからコントロール出来る方がおかしい。暴走した八卦炉をコントロール出来ず、どんどん右腕が右へ移動する。
「ちょ、ちょい待って!!」
俺の叫びは八卦炉に届かず、結果的に先ほどとは真逆に向けて放っている状態になった。レーザーは撃ちっぱなしなので空中を進んでいる。確か、この先にあるのは――。
(人里!)
その証拠に後ろを見れば人里が見えて来た。その近くに怪鳥が倒れているのも確認出来る。そして、怪鳥の様子を見に来た人影が見えた。
「け、慧音!!」
そう、慧音だ。俺の声が聞こえたのか慧音がこちらを見て顔を引き攣らせる。
「止めてええええええええええええ!!」
「一体、何をしているのだ!」
慧音は急いで俺に近づき、右手首に手刀を放つ。その衝撃で手から八卦炉が零れ、放出が止んだ。慌てて八卦炉を空中でキャッチし、慧音に抱き止められた。
「響! 何があった!?」
慧音の顔には心配と不安が現れていた。
「い、一旦、降りよう。それにこのままだと慧音の服が汚れる」
「? お前の服は汚れているようにみえ……ッ!?」
慧音が俺の背中から血が流れているのに気付き、目を見開いた。
「……そうだな。寺子屋へ行こう。傷の手当が先決だ」
「さんきゅ」
「さて……訳を聞こうか?」
傷の手当をして貰い、更に服まで洗濯してもらった俺は今、布団に横になっている。力を使いすぎて体が上手く動かせないのだ。
「簡単に言うと魔理沙を探してる途中でさっきの怪鳥に襲われた」
「……本当に簡単だな。さっきのってあの人里の近くに落ちて来たあれか?」
慧音の問いかけに頷いて答える。
「ふむ……好都合か。ちょっと待っていてくれ」
「? わかった」
返事をすると慧音は部屋を出て行った。その隙に枕元に置いてあった八卦炉を振るえる手で掴み取った。
「壊れてないみたい……良かった」
あの暴走で皹でも入れば依頼は失敗に終わってしまっていた所だ。
「待たせた」
安堵の溜息を吐いていると慧音が帰って来る。
「はい、これはお礼だ」
そう言ってパンパンに膨れた巾着袋を渡される。
「お礼?」
「あの怪鳥を退治してくれたお礼だ。最近、現れて人里を襲うようになってな。私は戦うつもりだったが頭が良いのか私を見つけるとすぐに逃げてしまって困っていたのだ」
「そこで俺が倒したと?」
「その通り。丁度、新しい万屋にこの依頼状を出そうとしていた所にあの怪鳥が墜落して来て吃驚したぞ」
「……その依頼状、見せて貰ってもいいか?」
慧音は頷いて依頼状を差し出して来た。礼を言いつつ、受け取り見てみる。
(うん、俺への依頼状だな。こりゃ)
「因みに……その万屋を見た事は?」
「ない。今回はその万屋の強さを確認するのも兼ねていたから残念だ」
そう言って溜息を吐く。
「その目標、達成されてるわ」
「へ?」
はてな顔になる慧音。それに苦笑しつつ、自分が万屋である事を説明した。
第43話 指輪
「森近さ~ん……すみません。魔理沙、見つかりませんでした~」
慧音の所で休ませて貰い、霊力が回復し傷を治してから早5時間。俺はずっと飛び回っていた。因みに慧音は俺が万屋だとわかると驚いていた。更に射命丸の新聞に載った狂気異変は俺の本名ではなく万屋と書かれていたらしく、質問攻めにあった。
「お? お疲れ、響。依頼か?」
日も傾き、香霖堂に帰って来た俺を出迎えたのは魔理沙だった。
「ああ、そうなんだよ。ったく、魔理沙の奴どこに……っていたあああああああ!!」
「聞いたぜ? 八卦炉を届ける依頼を受けたんだってな? 丁度、すれ違ったみたいだ。まぁ、こっちがお前を探しに行って会えなかったら困るからずっとここにいたから骨折り損のくたびれもうけだったけどな!」
わははは~、と大声で笑いながら魔理沙がそう言った。
「……聞くけどいつぐらいからここに?」
「そうだな~。6時間ほど前か?」
「もうちょっとお前が早く来ればあんなのと戦わなくても良かったのに……」
項垂れて呟いた。まぁ、お礼の金額がそれなりに良かったので文句は言えないが。
「もうちょっとお前が遅く出れば良かったのにな」
こいつまだ、笑っている。口元がピクピクしているのがその証拠だ。
「まぁ、いい。ほれ、八卦炉」
「おお、サンキュー」
ポケットから八卦炉を取り出し、手渡した。
「うん。ちゃんと直ってるみたいだ。これでちゃんと弾幕ごっこが出来るぜ」
「そうか……」
もう、何も言うまい。
「お? 帰って来たかい」
店の奥から森近さんがやって来た。
「はい、今渡しました」
「貰ったぜ」
「うん。じゃあ、約束通りこの店の中から一つ持って行っていいよ」
「わ、わかりました……けど」
店を見渡す。カオス。この中からどうやって選ぼうか。
(そうだ。望のお土産として持って行くか……)
そうなればアクセサリーにしよう。
「私も選ぶの手伝うぜ? どんなのにするんだ?」
「身に付ける物。女の子に似合うのにしてくれ」
「お前が付けるのか?」
「いや、妹に」
「へ~お前、妹がいたのか」
そんな他愛もない話をしながら物色を始めた。
「これなんてどうだ?」
「……何、それ?」
「さぁ? ネックレスだと思う」
「おかしいよね? うねうね動いてるよね? こっち見て『シャー』って言ってるよね? 完全に蛇だよね?」
「これは?」
「……駄目」
「何でだ? 泳ぐ時とかに着るだろ?」
「いや、スク水って……旧タイプだし」
「これでいいだろ? 動きやすそうだし」
「また幻の一品を……ブルマがどうしてここに?」
「へ~そんな名前なんだ。これ」
「それも駄目」
「全く、注文が多い奴だぜ」
「それを持って来るお前もお前だ」
探し始めて1時間。良い物は見つからない。魔理沙は飽きて帰ってしまった。
「どうすっかな~……」
腕時計を見ると午後4時。そろそろ博麗神社に行きたくなって来た。
「見つかったかい?」
「いえ、まだです」
途中、良い物もいくつか見つけた。だが、それらは森近さんのお気に入りらしくゆずって貰えなかったのだ。
「そろそろ店仕舞いなんだ。今度、おいで」
「はい、わか……ん?」
そこで一つの指輪が視界に入る。シンプルな作りに緑色の鉱石が埋め込まれていてそれはとても幻想的だった。
「これは?」
「それは非売品じゃないよ。指輪自体に名前はないけどその鉱石の名前は『合力石』。その用途は『合わせる』らしいけどよく意味がわからないんだ」
「……これにします」
この指輪なら外の世界でも付けられるし望に似合いそうだ。問題は輪の大きさ。
「ちょっと付けてみますね」
「うん、いいよ」
森近さんが頷いたのを見て指輪を手に取る。それを右手の中指にはめた。大きさはぴったし。望には少し大きいかもしれないが問題ないはずだ。
「よし」
自然と口元が緩む。望は喜んでくれるだろうか。そう思いながら指輪を引っ張る。
「……」
もう一度、引っ張る。
「? どうしたんだい?」
「は、外れません……」
どれほど力を込めて引っ張っても抜けない。
「それは大変だ! 手伝うよ」
「お、お願いします!」
森近さんは慌てて俺の指輪を引っ張る。
「いででででで!?」
「す、すまない……でも、これは駄目だね」
申し訳なさそうに森近さんがそう言った。
「マジですか?」
「うん、輪が少し歪んでいて入れる時はスルッと入ったけど抜くときはガッチリ、指に食い込んでるみたいだ」
「じゃ、じゃあ……」
「何か拍子に外れるかもしれないからそれまで付けたままにするしかないね」
「そ、そんな~」
その場で崩れ落ちる。望のお土産もそうだが、こんな物を付けていたらより一層、女に見られてしまう。
「だ、大丈夫かい?」
「はい……ありがとうございました」
「う、うん。気を付けて帰ってね」
項垂れながら俺は香霖堂を後にした。
「だから、それを付けていたのね?」
「そう言う事……外れないかな? いででででででッ!?」
博麗神社で霊夢にお茶を飲みながら先ほどの事を話した。
「ふ~ん……それにしても『合力石』ね」
「知ってるのか?」
「全然。だけど……何となく貴方にピッタリな気がする」
湯呑を縁側に置いて霊夢は言い切った。
「何じゃそりゃ?」
「勘よ。その指輪、いつか役に立つ気がする」
そこまで言って霊夢が急須から湯呑にお茶を注ぎ、湯呑を持ってすぐに啜った。
「そうかい」
それを追うように俺も湯呑を傾ける。とても、平和だ。和む。
「これから晩御飯だけど一緒に食べる?」
「……いや、帰るよ」
家で望が待っている。
「そう、わかったわ」
「お茶、ご馳走様」
「お粗末様」
縁側から外に出てスペルを唱える。
「またな」「またね」
ほぼ同時に別れを言って俺はスキマに飛び込んだ。
「ただいま~」
近くの公園からようやく家に辿り着いた。玄関の鍵を開け、家に入る。
「ん?」
時間は午後6時半。そろそろ日が傾き始めた。それなのにどこも電気が付いていない。
「望~?」
居間に入りながら名前を呼ぶが返事はない。居間にいないようだ。
「……」
俺はテーブルの上に置いておいた望の昼食を見る。手が付けられていない。
「の、望!」
望の身に何かあったのかもしれない。俺は慌てて望の部屋へ向かう。
「望!!」
ノックもせずに突入。そして、目の前の光景に俺は目を疑った。
「の、望いいいいいいいいい!!」
「……」
「ど、どうして! 何故、こんな事に!」
「……」
「そ、そうか……寂しかったのか。最近、依頼が増えて来たから構ってやれなかったもんな……ごめん、お兄ちゃんのせいだ」
「……」
「何か言ってくれよ……望」
「……」
「どうして……どうして、東方なんてしてるんだああああああああああああああああッ!?」
望はパソコンのディスプレイを凝視して俺の事に気付かない。目を見ると虚ろだ。髪はボサボサ。そう言えば、昨日から望の姿を見ていない。昨日は依頼が長引いて深夜近くに帰って来たからだ。
「ゴメン」
キーボードを連打する望みを後ろから抱き締める。望の指がピクッと震えた。
「お兄ちゃん……」
とても小さな声で望がそう言った。
「ああ、お兄ちゃんだ。ごめんな? また寂しい思いをさせて」
「――うん」
頷く望。それでもまだ自機である霊夢を動かしている。もう廃人にも等しい。
「お前……今、何歳だ?」
「15歳」
「中学何年だ?」
「3年」
「受験だな」
「うん」
実はそれに気付いたのは一昨日の事だ。幻想郷に行ったり、母が蒸発したり、この前の異変の事で頭が一杯で忘れていたのだ。受験は何かとお金がかかる。もし、私立の高校に入ればもっとお金が必要だ。だから、昨日たくさん依頼を熟した。その結果、望はこうなってしまったのだ。それだけではない。夏休みに入ってからだ。俺はあまり望の事を気にしていなかった。だが、望は母の蒸発を引きずっていたようだ。それも後押しして廃人となってしまった。
「望?」
「……」
「何が食べたい?」
「何でもいい」
「どうだ? 勝てそうか?」
「うん」
この状態に陥った事は一度だけある。前は勉強だった。声をかけても教科書から目を離そうとしなかった。
「勉強しなくていいのか?」
「うん」
「受験、どこ受けるんだ?」
「まだ決めてない」
こんな時だからこそ会話する。
「……お兄ちゃんの学校はどうだ?」
「わからない」
「制服がかわいいから。きっと、望似合うよ」
「後で決める」
「そう……ところで何が食べたい?」
「何でもいい」
画面では霊夢がパチュリーを倒していた。
「今、何やってるの?」
「東方紅魔郷のエクストラをNNNでクリアするつもり」
「NNN?」
「ノーミスノーボムノーショット」
一度もミスしないでスペルカードも使わず、更には通常弾すら使わない事のようだ。
「そんな事、出来るの?」
「今の所」
確かに霊夢からはショットは撃たれていない。ただひたすら敵の弾幕を躱していた。
「上手いな。いつから始めた?」
「昨日」
普通は無理だと思う。後で悟に聞いてみようと決めた。
「さっきのキャラ、名前は?」
「パチュリー・ノーレッジ」
「中バスだったの?」
「うん。ボスはフランドール・スカーレット」
望が言った刹那、フランが現れた。
「強い?」
「そこそこ」
「好きか? フラン」
「一番」
「どうして?」
「何となく」
まだだ。まだ、望は廃人だ。望が俺に質問すれば廃人を脱出させる事が出来る。それを知っているからこうやって会話している。諦めてはいけない。 俺のせいだから。そして、俺しか望を助けられないから。
それからも他愛ものない会話が続き――。
「そう……ところで何が食べたい?」
10回目の同じ質問。
「……どうしてそんなに食べたい物を聞くの?」
(来た!)
「お前に寂しい思いをさせちゃったからな。好きな物を食べさせたくなったんだよ。そうだ! これから一緒に買い物に行かない? 冷蔵庫には何もなかったような気がする」
「……お兄ちゃん?」
フランの弾幕を躱しながら望が俺を呼ぶ。
「何?」
「私……お兄ちゃんの学校に行く」
その時、初めて霊夢が被弾した。
「おう」
「その頃はお兄ちゃん、いないけど……」
「留年するつもりはない」
「知ってる」
すぐに霊夢が復活したが望の指は動かない。
「知ってるもん。お兄ちゃん、仕事から帰って来てから勉強してるって」
「……まぁな」
また霊夢が被弾。その時、望がこちらに振り返る。頬は濡れていた。
「ゴメンね。心配させて……もっと、強くならなきゃね。こんな寂しがり屋じゃお兄ちゃんに心配かけちゃうもんね」
「頑張れよ。望」
「うん! あ、ハンバーグ食べたいな」
「おう! じゃあ、出かける準備して来い。髪、ボサボサだぞ」
「え? あ! ほ、本当だ! ど、どうしよう!」
慌てる望。俺はそれを見て溜息を吐いて櫛を取りに洗面台に向かった。
こうして、夏休みは過ぎて行った。仕事をして、勉強して、依頼のない日は遊んで――。
だが、俺は忘れていた。夏休みが終わると同時に2学期が始まる事。それだけならまだしも、今回の異変の影響がまさか外の世界で起きるとは思いもしなかった。
第1章、完結!
第―話 あとがき
ネタバレがありますので、本編を読んでからお読みください
東方楽曲伝第1章~狂気と血~、無事に完結しました!
まぁ、ここら辺は私も好きな話なので何度も読み返していたからそこまで、心配してはいなかったんですがw
さて、時間が経つのは早いものでここで『東方楽曲伝』を投稿してからもう、1か月以上経っているんですね。
私自身、『寝る前に投稿』が習慣づけられていて気付いたらここまで経っていました。
深夜投稿なのはそのためです。睡魔に勝てずに寝ちゃった日は夕方投稿とかになっています。
私の生活習慣がばれるっ!
では、そろそろ第1章の解説でもしていきましょうか。あ、あとがき、長くなります。面倒な人は読み飛ばしちゃっても構いません。
まずは、フランドールについてですね。
序章のあとがきにも書いたように私が一番、好きなキャラです。もう、愛しています。妹です。異論は認めません。
そのせいで、響さんと血が繋がってしまいました。最初の段階ではそこまでするつもりはなかったのですが、気付いたらこのような結果に。でも、この出来事が響さんにとって重要な事件だったのは確かです。
序章は準備。そして、第1章から響さんの運命が狂っていく――いえ、運命の歯車が回り始めたと言っても過言ではないでしょう。
まぁ、フランドールはこれから、何度も出て来ますしこの幻想入りで重要なキャラなのは間違いないです。
次は響さんの新しい力についてです。
序章では『コスプレ』を手に入れました。
感想でも言ったのですが、これは響さんの本来の能力ではありません。彼の能力は状況に応じて能力が変わる珍しい能力なのです。
その条件は響さん自身も読めないのでそれを使いこなすにはまだ、時間が必要です。でも、能力名はそこまで複雑な物ではありません。
作中でもこう言ったあとがきでも彼の本当の能力名は書くつもりはないです。これは読者様に響さんの本当の能力を想像して欲しいからです。
もし、本当の能力名を聞いてしまうと次の展開が読めてしまうことが多々あります。それも狙いの内です。『次に何が起こるのか!?』と、そのようなドキドキ感を味わってほしいですw
『コスプレ』について長くなってしまいましたが、ここで話したかったのは魂の住人についてです。
こちらはこれから作中でも説明するのですが、ここでも軽く解説しておこうかなと思いまして。
現在、響さんの魂にいるのは吸血鬼、狂気、トールです。
吸血鬼についてはまだ、詳しく話せませんがかなり前から響さんの魂に住んでいます。
狂気とトールは今回から住み始めました。
ここで問題になるのが、『家賃』です。
第2章の序盤でトールさんがもっとわかりやすく説明してくれますが、簡単に言ってしまえば、今の魂構造を維持する為には響さんに吸血鬼の持っている魔力、狂気の持っている妖力、トールの持っている神力を少しだけ提供しなくてはならないのです。
そのため、響さん自身が持っていた霊力とそれぞれの力が邪魔し合い、響さんは上手く表に力を出せなくなってしまった、というわけです。
この辺は分かり辛いと思うのでもし、何か疑問に思った事があれば感想で聞いてください。出来る限り、お答えします。
長くなってしまいましたが、最後に次回予告でも。
第2章は外の世界の話を中心とした短編?みたいなものです。
あ、読んでいればわかると思いますが、響さんは外の世界と幻想郷を行き来できるので外の話もあります。そのため、東方キャラが出ない話も……それでいいのか!?
第2章を一言で言い表すなら『変化』ですね。
幻想郷に行った事によって響さんの生活に変化が起きた。そのような内容になっております。
サブタイトルはそのまま~外の世界~です。
これからどんどん、オリキャラが出て来てしまうのですが、そこら辺は大目に見てください……
さて、このあとがきも1500文字超えて来ました。何も考えずに書いているのであとがきはいつも長くなってしまうんですよ……
これが本当の最後になりますが、感想、お気に入り登録、本当にありがとうございました。感想が来た時はどんなことが書いてあるのかドキドキしながら読み、お気に入り登録数が増えたらニヤニヤしています。
これからもたくさんの感想、お待ちしております!些細な事でもいいので気軽に送って来てくださいね!
それでは、皆様、ここまで読んでくださってありがとうございました!
第2章のあとがきでお会いしましょう!
お疲れ様でした!
没翻译咋看啊......日语看不懂啦
Lolopko 发表于 2022-10-16 11:52
没翻译咋看啊......日语看不懂啦
说啦蹲个字幕组嘛(())