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楼主: wewewe

[转载作品] (授权转载/生肉/长篇小说/完结作)東方楽曲伝(更新至第2章 ~外の世界~)

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 楼主| 发表于 2022-10-14 16:16:08 | 显示全部楼层
第16話 再会と蒸発

「――」

「――」

 階段を下りて1階に到着する。居間の方から女の子の声と男の声が聞こえた。

(望と刑事か……)

 心臓がバクバクしている。1週間ぶりの帰宅。更に俺は失踪している事になっているから当たり前だ。

(大丈夫。あれだけの困難を乗り越えたんだ。いける!)

 居間へと繋がる扉へとゆっくりと近づき――。



――コンコン



 怖くなってノックした。

(うわっ!? 俺、ダサ……)

「え!? な、何!?」

「落ち着いて。遅れて来た私の部下かも」

 ノックしなきゃよかったと望と刑事の会話を聞いて後悔する。

「あ、あの~……」

 刑事が扉に近づいて来る気配がしたので自らの手で開けた。

「「……」」

 俺の姿を見た2人は呆然と俺を見ている。

「の、望。ただいま」

「お、お兄ちゃん!?」

「あ、ああ……俺だ」

「え、嘘? 急に? 夢じゃない?」

「ああ、夢じゃない」

「ふ、ふにゅ~……」

「の、望!?」

 安心したのか驚いたのか望はその場で気を失ってしまった。前のめりに倒れて来たので両手で受け止める。

「貴女が……お兄さん?」

 明らかに疑いの目で俺を見る刑事。

「男ですよ?」

 望をソファに寝かせてから言い張る。

「いや……」

「男ですよ?」

「……失礼。しかし、貴女は――」

「男ですよ?」

「……貴方はどこへ行ってたんだい?」

「えっと、ですね――」

 さすがに幻想郷の話をするわけにはいかないので適当に近くの山で遭難していた事にした。

「それは……よく生きていたな」

 刑事は苦笑いしながらそう言った。

「はい、あれは苦しかったです」

(主にコスプレがな!)

「まぁ、無事だったからよかった」

「ありがとうございます」

「でも……母親が」

「え?」

 そう言えば、母の姿が見えない。

「実は……蒸発したようで」

「今、なんて?」

「2日前、貴方を探しに世界中を飛び回っていたがそこで運命の人と会った、と妹さんに電話が来たらしい。で、行方知れず」

「あのバカ母が……」

 少し複雑だが、説明しておこう。今の母親は俺の本当の母ではない。この母を『母親1』と名付けておく。つまり、望とは血が繋がっていない『義妹』なのだ。母親1と再婚した今は亡き父親もまた俺の本当の父親ではない。この父親を『父親1』とする。母親1と再婚する前に俺の本当の母親――『母親2』はこの父親1と再婚した。そして、母親2と最初に結婚したのが『父親2』なのだ。

 整理しよう。まず、父親2と母親2の間に俺が生まれた。理由は分からないが離婚し母親2の方について行くことになった。

 そして、母親2と父親1が再婚。だが、すぐに喧嘩別れし、今度は父親1の方へ引き取られる。

 最後に父親1と母親1が再婚。先ほど言ったように父親1が病気で亡くなり、今に至る。

(今度は蒸発かよ……とうとう親がいなくなりやがったのだ)

「私たちも出来るだけ協力させて頂く。問題はお金なのだが……」

「それは何とかなると思います」

「バイトでもするのかい?」

「そんなところです」

 妖怪の会社に入ったなどと言えるはずがない。

「そうか……まぁ、今日のところはここらへんで。何かあったらここに電話してくれ」

 刑事さんは名刺ケースから1枚だけ名刺を出し、テーブルの上に置いた。

「ありがとうございました」

「これも我々の仕事だからね。妹さんによろしく」

「はい」

 こうして、刑事さんは帰って行った。

「蒸発か……」

 何とも言えない気持ちになった。運命の人と言っていたがどんな人なのだろうか?

「……東ひがし 幸助こうすけね」

 あの刑事の名前を確認した後、名刺を適当な小物入れに仕舞った。

(そういえば……)

 短パンのポケットに手を突っ込み、紫から受け取った物を取り出した。

「け、携帯?」

 一昔前の折り畳み式の携帯だった。機種もかなり古い。開くと待ち受け画面が紫だった。スキマに腰掛けて右手に顎を乗せながらこちらに向けて微笑んでいる。

「えっと……」

 辺りを見渡し、テレビをこの携帯のカメラで撮影。瞬時に保存し待ち受けにした。ここまで約10秒。ほとんど本能で動いていた。

「私よりテレビの方がいいのね」

「うわっ!?」

 背後から急に話しかけられたので思わず、声を出してしまう。振り返るとスキマから顔を出している紫がいた。

「ゆ、紫!? どうしてここに!?」

「様子を見に来たのよ。そしたら、丁度待ち受けをテレビにしていたのよ」

「す、すまん……」

「……まぁ、いいわ。大丈夫そうだし帰るわね」

「え? もう?」

「妹さんに見つかったら面倒なのよ。それから連絡はその携帯でね。私の番号はもう登録しておいたから」

「あ、ああ」

「じゃあね~」

 紫は帰って行った。嵐のような人――妖怪だ。

「これでか……」

 紫から貰った携帯を観察していると裏面にローマ字でロゴがあった。

「えっと……『スキーマフォン』」

 数秒間、硬直してしまった。まさかのパクリだった。しかも、あっちはタッチパネル式なのに対し、こっちは古ぼけた折り畳み式。スマートフォンに失礼だと思う。

「略せば『スキホ』か? おい」

 そう呟いた途端、スキホが震えだした。

(何だ?)

 どうやら、メールのようだ。送り主は紫。

『八雲紫:パクリじゃないわよ? 外にいても幻想郷にいる私に連絡出来るからそう名付けただけよ?』

 読み終わった後、辺りを見渡すが誰もいなかった。

「まぁ、いいか……」

――ピーンポーン

 溜息を吐くと急にインターホンが鳴った。

「は~い」

 スキホをポケットに突っ込んで玄関へ向かう。

「どちら様ですか~?」

 来客に問いかけながらドアノブを回し、開ける。

「「……」」

 そこには大きなカバンを持った悟がいた。

「あ、あれ? 帰って……来たのか?」

「おかげさまでな。で? その荷物は?」

 怪しい。怪しすぎる。

「こ、これはあれだよ! 東方だよ!」

「はぁ? 東方?」

 俺をコスプレさせた元凶だ。

「望ちゃんの悲しみを紛らわせようと思って持ってきたんだよ」

「悲しみ?」

「お前とお前の母さんがいなくなった事だよ」

「……でも、俺は帰って来た。だからそんな物、いらない」

「待て待て! これは望ちゃんに頼まれた事でもあるんだよ!」

(頼まれた?)

「何か暇つぶし出来てクリアするのが難しいゲームはないかって聞かれたんだ」

「だから、東方なのか?」

「ああ、難しい。はっきり言って全クリは不可能だ」

「ふ~ん……まぁ、上れよ。望は今、気絶中だけど……」

「……何があったの?」

 悟を無視して居間に戻った。



「――よし! これで全部、インストールしたぞ!」

 居間にあるテーブルの上には乱暴に置かれた東方のケースとノートパソコンがあった。

「一体、いくつあるんだよ……」

 重なっていてよく見えないが5本はある。

「えっと、『紅魔郷』、『妖々夢』、『永夜抄』、『風神録』、『地霊殿』、『星蓮船』、『神霊廟』。後は変則的な奴がいくつかだな。生憎、旧作は持ってない」

(旧作まで……)

「やってみるか?」

「やらん」

 適当に断って望の様子を伺う。熱はない。顔色も良い。それに口元が緩んでいる。良い夢でも見ているのだろう。

「オレも何度か挑戦したけど無理だ。霊夢は精密な動きが出来るが集中力が必要で性に合わない。魔理沙はパワーがあるが操作を1つでもミスれば弾に突っ込んじゃうんだよ」

「へ~霊夢と魔理沙が自機なんだ」

 確かに今思えば霊夢は主人公っぽいし、魔理沙は色々な事に首を突っ込んでそうだ。

「……知ってるのか? 他には?」

「紫、藍、橙、アリス、慧音、妹紅……ハッ!?」

 望の様子を見るのに夢中で無意識で答えていた。急いで悟の方を振り返るとニヤニヤしていた。

「何だよ~! あんなに無関心そうだったのに調べてんじゃん!」

「い、いや! 違う!」

「大丈夫だって! 東方はキャラを知ってから始まるんだ!」

「意味がわからん!」

 望が目覚めるまで俺と悟との口論は続いた。
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 楼主| 发表于 2022-10-14 16:22:09 | 显示全部楼层
第17話 仕事の内容

「おにいちゃあああああああん!」

「うわっ!?」

 悟と口論していると後ろから望に抱き着かれる。

「び、吃驚するだろ!?」

「お兄ちゃんだ! 帰って来たんだ!」

「ああ、帰って来たぞ」

「よかった……本当によかった」

 顔のすぐ横にある望の頭を優しく撫でてやる。俺と望を見て悟も微笑んでいた。



「じゃあ、東方でもしますか!」

「やらん」「あ、悟さん。もう結構です」

 望が落ち着いたのを見計らって悟が誘って来たが兄妹揃ってお断りした。

「……わかったよ。もう帰るよ! でも、インストールしたから暇な時にでも遊んでください!」

 そう、叫んで帰って行った。

「……じゃあ、飯にでもするか」

「うん!」

 母がいないので俺が代わりに作る。普段、母は仕事で忙しくて俺が飯を作っているのだ。

「さて……何作るかな?」

「ねぇ? お兄ちゃん?」

「ん?」

 冷蔵庫の中身を確認しつつ、返事をする。

「お母さんの事、聞いた?」

「……ああ」

 昔から自由な人だった。仕事も急に休んだりやめたり、何日も家を開けたと思えば何日も家に引き籠る。そんな人だった。

「まぁ、またいつか帰って来るだろうさ」

「……うん。後もう1つ」

「何だ?」

(お? これならチャーハンかな?)

「学校……大丈夫?」

「電話して来る!」

 チャーハンは少しの間、お預けのようだ。



『それは大変だったな』

「はい、ご心配おかけしました」

『無事だったんだ。それだけでいい。夏休みまであと3日だ。来なくてもいいぞ。ゆっくり休め』

「いいんですか? 受験なのに」

 今、俺は18歳。高校3年だ。

『大丈夫だって。お前の成績なら受かる』

「……わかりました。お言葉に甘えさせていただきます」

『じゃあ、頑張れよ』

「はい、ありがとうございました」

 そう言って、受話器を置いた。

「どうだった?」

「大丈夫そうだ。それにもう俺は夏休みだ」

「ええ!? いいな~!」

「よくないだろ? 俺は受験生なんだから勉強しないと」

「それもそうだね! それよりお腹すいた」

 望の言葉を聞いて時計を見ると2時。1時に電話を掛けたから約1時間、話していた事になる。

「すまん。今すぐ作るから」

「ありがと、お兄ちゃん!」

 俺は安心した。1週間も行方不明だったが生活には何も影響はなさそうだからだ。この後、お喋りしながらチャーハンを食べた。



『八雲紫:はぁ~い』

『音無響:メールなんだから要件だけ書け』

『八雲紫:何よ~! 意地悪なんだから』

 深夜、紫からメールが来た。

『音無響:こっちは眠いんだ』

『八雲紫:じゃあ、電話にする?』

『音無響:それもそれで嫌だな……』

 本音である。

『八雲紫:本当に意地悪なのね』

『音無響:お前にしかしないから大丈夫だ』

『八雲紫:それでも上司に対する言葉使いなの?』

『音無響:あれ? 上司だっけ?』

『八雲紫:こっちに閉じ込められたいの?』

『音無響:電話にしてください』

『八雲紫:よろしい』

 少し待ってから着信が来た。着メロは『ネクロファンタジア』である。変身はしない。やはり、イヤホンをして聞かないと能力は発動しないらしい。

『はぁ~い』

「それをしないと気が済まないのか?」

『まぁね』

「まぁ、いいけど。で、仕事についてか?」

 何となく聞いてみる。

『正解』

「マジかよ……」

『じゃあ、説明するわね。貴方の仕事は2つ。外の世界はもちろんだけど幻想郷でも仕事あるから』

「え? マジ?」

 何やら、嫌な予感がした。

『まず、幻想郷での仕事。万屋よ』

「……もう一度、お願いします」

 是非、聞き間違いであって欲しい。

『万屋よ。こちらで依頼があった時にあのスペルを使って派遣されて欲しいの』

「こちらにも学校があるのですが?」

『大丈夫。暇な時でいいから』

「……外の世界での仕事は?」

『そっちも大きく分けて2つ。1つ目は幻想郷に纏わる事の消去。2つ目は妖怪退治ね。貴方の能力を使って戦いなさい』

「……結局、コスプレするんじゃねーかああああああああ!!」

 思わず、絶叫してしまった。

「お兄ちゃん?」

 そこへ妹がノックもせずに入って来た。いつもはツインテールだが、今は降ろしている。手には枕があった。

「な、何だ?」

「一緒に寝ていい?」

(今言うか!?)

 何となく予想はしていた。望は寂しくなると一人で眠れなくなってしまうのだ。俺が失踪した事。母が蒸発した事で今になって寂しさが溢れて来たのだろう。

『どうしたの?』

 電話の向こうで紫の声がしたが無視する。

「いいけど、ちょっと待ってな。お兄ちゃん、大事な電話してるから」

「わかった。終わるまでここにいる」

(な、何だと……)

 これでは望に聞かれてしまう。

「紫! 緊急事態だ」

 望には聞こえないように小声になる。

『妹さんね?』

「ああ」

『じゃあ、こう言うのよ』

 紫からアドバイスを貰い、望みの方を向く。

「望」

「何?」

 少し目に涙を溜めている。泣き出すのも時間の問題だ。昼間は悟がいたから泣かなかっただけのようだ。

「お兄ちゃんはお前との生活を守りたい」

「うん」

「そのための電話なんだ」

「でも、相手の人は女の人でしょ? 少し、声が聞こえたから」

「仕事の上司なんだ」

「え? もう、お仕事?」

 意味が分かっていないようで首を傾げながら聞いて来る。

「ああ、今俺たちには親がいない。なら、自分でお金を稼ぐしかない」

「なら、私がするよ! まだ中学生だけど……何とかする! お兄ちゃんは受験生だもん! 勉強で忙しいでしょ?」

 紫の言う通り、望は自分が仕事をすると言った。

「駄目だ」

「どうして!?」

「お前が大事だからだ」

「っ!?」

 俺の言葉を聞いた望が大きく目を見開いた。

「お前は俺にとってただ一人の家族だ。お兄ちゃんとして、男として守らなければいけない」

「お、お兄ちゃん……」

「だから、お金の事は俺にまかせてお前は勉強に専念しろ」

「うん! 今から勉強して来る!」

「おう! 頑張れ!」

「うん!」

 望は元気よく部屋を出て行った。枕を置いて行ったので帰って来るつもりらしい。

『どうだった?』

「上手くいったよ。さんきゅな」

『ええ……軽くフラグ立ったかもしれないけど』

「ん? なんか言ったか?」

『いえ、何でもないわ。それで幻想郷の痕跡を消す仕事はその時になったら説明するわ。で、妖怪退治だけど……』

 そこで紫が言葉を区切った。

『明日の午後2時、近くの山で待ってるわ』

 それだけ言って電話は切れた。

(今、なんて言った?)

 明日。午後2時。近くの山。待つ。

「あれ? これって……」

(妖怪退治?)

 早速、コスプレする事になった。2時間後、望が帰って来るまでベッドの上で膝を抱える事にもなった。
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 楼主| 发表于 2022-10-14 16:24:28 | 显示全部楼层
第18話 妖怪退治

「……はぁ」

 山道をゆっくりと歩きながら溜息を吐く俺。憂鬱なのだ。

「今日で何度目よ?」

「いきなり、妖怪退治なんかしなきゃいけないからだよっ!」

 横を飛んでいる紫に向かって文句を言う。

 今、望は学校で家にいない。帰って来る時間はだいたい午後7時。部活で遅くなるのだ。

「いいじゃない。それほどの力を持ってるのだから」

「コスプレが嫌なんだよ……」

 それに人里の戦いは運が良かったのだ。いや、幻想郷に行ってから運が良かっただけなのだ。死なずに帰って来られたのが不思議だ。

「……で? 理解、出来たかしら?」

「……何となく、な」

 山の麓で紫と合流し、歩きながら俺の能力について聞いた。俺の想像していたのとは全然、違ったが――。

「なぁ、俺の能力って珍しい?」

「ええ。私ですら見た事のない種類よ」

「へ~」

「あまり興味、なさそうね?」

「だって、その能力のせいでコスプレする事になったんだからな」

(それにしても信じられないな……)

「まぁ、使いこなすのはまず無理ね」

「だろうな」

 紫の発言に同意する。

「あれ? そう言えば俺たちってどこに向かってるんだ?」

 麓で合流してからずっと山道を登り続けている。

「もう少しよ」

 出来たら一生、着かないでほしい。

「ああ、後。今回の戦いで……いや、言わないでおくわ」

「は? 気になるじゃん。言えよ」

「言ったら意味がなくなるの」

「そんなもんか」

「そんなもんよ。それより、万屋の事なんだけど」

「万屋?」

 意味が分からなかったので聞き返す。

「昨日、言ったじゃない。こっち(幻想郷)でも仕事させるって」

「……言ってたな」

 妖怪退治のインパクトが強すぎて忘れていた。

「前に渡したスキホ、今持ってる?」

「ああ、一応持ってきた」

 そう言いながら、ポケットから取り出して見せる。紫との連絡手段はこれしかないので持って来ておいたのだ。因みにPSPが入ったホルスターは左腕に括り付けてある。

「ちょっと貸して」

「ん」

 スキホを受け取った紫は人差し指で一回、さすった。

「はい、もういいわ」

「? 何したんだ?」

「スキホに貴方の所に来た依頼を表示されるようにしたのよ」

「依頼って万屋の?」

「そう、人里と博麗神社。他の所にも依頼状を投函するボックスを設置したの。ボックスに投函された依頼状は真っ直ぐ、貴方の机の上に移動されるわ」

「待て。机の上はまずい。望に見られたら……」

「それもそうね。じゃあ、家に帰ったら移動先の画像をスキホで送りなさい」

「わかった」

 しかし、望に見られない場所。箪笥の中ぐらいしか思いつかなかった。

「でも、貴方にも生活がある。依頼状に気付かなかったら仕事にならない。そこでスキホの出番よ」

「……もしかして『スキホ』って言いたいだけか?」

「……ボックスを通過した依頼状を読み取って、依頼の内容をスキホにメールを送信するわ」

 俺の指摘を完全に無視した紫。だが、目が一瞬、泳いだところを見ると図星だったようだ。

「それは便利だな~」

「でしょ? これで学校帰りでも幻想郷に来れるわね」

「待て! 学校から真っ直ぐ行くのか!?」

「その方が早く帰れるわよ」

「確かにそうだけど……」

「ほら、着いたわ」

 紫の方を見ていたので気付かなかった。急いで前を向くと懐かしい景色が広がっていた。

「ここって……」

 少し前まで遊びに来ていた神社だ。ここの人が遠い所に引越しする事になり、最近来ていなかった。

「あら? 知ってるの?」

「ああ、ここの巫女さんとは友達だったんだ」

 神社は落ち葉が散乱している以外、何も変わっていなかった。普通なら取り壊しされそうなのだが。

(やっぱり、あれが効いてるのか?)

「どうかしたの?」

「いや、何でもない」

「そう。でも、あれは避けた方がいいわよ?」

「は?」

 紫が指さす方向――大木の方から大きな口を開けた何かがものすごいスピードで突っ込んで来た。

「ちょっとおおおおおおお!!!」

 ギリギリ、横に跳んで回避。何かは俺の真後ろにあった木にかぶりついた。

「ぺっ! 躱さないでよ!」

 しかし、すぐに離れて口の中に入ったであろう木片を吐き捨てながら文句を言って来る見た目は小学生の女の子。しかも低学年ほどだ。服は赤いロングスカートに上はぶかぶかのYシャツだ。

「無茶言うなよ!」

 思わず、叫んでしまった。紫もいつの間にか消えているしこいつが妖怪。俺が倒さなくてはいけない相手だ。

「いいや。殺してから食べちゃお」

 そう幼女が言った途端に彼女の体から得体の知れない力が溢れかえる。

(こえ~……)

 これは妖気だ。何となくそう思ったが心の奥底を抉るような息苦しさを感じる。

「死ねっ!」

 飛び上がった幼女の手から1つの大玉が発射される。

「うおっ!?」

 それを掠りながらも躱した。弾幕ごっこで言う『グレイズ』だ。躱した弾は地面にぶつかると文字通り炸裂した。

(え?)

 炸裂した弾は地面を抉り、大きな石を周囲に撒き散らせる。もちろん、近くにいた俺にも襲い掛かった。

「――ッ!?」

 声にならない叫び声を上げながら俺は吹き飛ばされ、地面を何回かバウンドしてようやく止まった。

「まだまだ!」

 それも数秒間。今度は弾幕を繰り出して来た幼女。それを俺は何も出来ずに食らう。

「ぐ、ぐあ、ああああああああああああああっ!?」

 激痛が体を駆け回り、衝撃でどちらが上か下か、前か後ろかわからなくなる。地面をゴロゴロと転がり、大木に激突する。

(そ、そうか……油断してた)

 弾幕を見た時、心のどこかで幻想郷で経験した弾幕ごっこの延長戦だと思っていた。しかし、違う点が1つだけあった。

(遊びか、殺し合いか……)

 大木に背中を預ける。しんどい。呼吸もままならない。死ぬかもしれない。死の恐怖が体を硬直させる。

――これはお守りです!

(あ……)

 急にあの子の声が脳内に響く。映像も微かに流れ始めた。これが走馬灯と言う奴か。

 中学の制服姿の俺と巫女服姿の彼女。場所はここ。守矢神社。時は彼女が引っ越す前日。懐かしい。

――お守り?

――そうです! 貴女は女の子としての自覚が足らな過ぎます! 今までは私が守って来られましたが明日からは無理です……その代わりと言っては何ですがこのお守りをあげます。

(そう言えば、最後まで俺の事、女だと思ってたな)

「ん? 死んだ?」

 幼女が確認の為に声をかけてきた。

「ま……だ、だ」

 意識ははっきりしているのに声が掠れる。相当、ダメージを負っているようだ。

――このお守りは“奇跡”の力を持っています! 貴女に危険が迫った時にきっと守ってくれるはずです!

 彼女からお守りを受け取る俺。

――ん? どうしました?

「まだか~。じゃあ、もう一発!」

 弾幕を撃つために妖力を溜め始める幼女。先ほどのよりも強力な技を繰り出すつもりらしい。

――ああ!!

 脳内では俺が黙ってお守りを大木の下の方から突き出ていた枝に引っ掛けていた。あの子を傷つけたと今になって気付いた。

(でも、後悔はしてない)

 この行動のおかげでこの神社は今でも取り壊される事はなかった。“奇跡”の力でだ。

――どうしてそんな事をするんですか!?

――決まってるだろ

(ああ、決まってる)

「バイバイ!!」

 チャージも完了したようで幼女から再び弾幕が吐き出された。

――この神社を残しておきたいからだ

「うおおおおおおおっ!!」

 体に鞭を打って枝に引っ掛かっていたお守りを掴み、弾幕に向かって投げつけた。

(じゃあな……思い出の場所)

 あの子が引っ越した後、この神社は取り壊され、その後に旅館が立つ事はこの町の住人は知っていた。もちろん、俺もだ。ここからの眺めは絶景だ。放っておくわけがない。だが、俺はあの子との思い出の場所をなくしたくなかった。だから、俺はお守りを大木に引っ掛けた。俺も半信半疑だったが“奇跡”の力は絶大だったようで今でも残っている。それも今日までだ。

「ッ!? う、嘘!?」

 俺が投げたお守りからお札が飛び出して結界を出現させ、幼女の弾幕をひとつ残らず、受け止めていた。

「予想以上だな……」

 呟きながら大木を支えにして立ち上がる。足がガタガタと震えた。

「このっ! このっ!! このおおおお!!」

 それを壊そうと弾幕を放ちまくる幼女。結界が壊れるのも時間の問題だ。証拠に亀裂が走っている。

「でも、十分だ」

 俺はPSPからイヤホンを伸ばし、そっと耳に装着した。



~信仰は儚き人間の為~



 服が光り輝き、下は青いスカート。上は白い袖なしのシャツのような服。そして、霊夢のように腋がばっくりと開いていて袖は腕に括り付けられている。前髪にはカエルのアクセサリーがポニーテールには白い蛇のアクセサリーが巻き付いていた。初めてのコスプレだ。手には霊夢のとは違うお祓い棒。どうやら巫女さんらしい。紅白ではないが。

 そう思った刹那、結界が破られる。弾幕が押し寄せて来る。

「これで終わりっ!!」

 幼女の嬉しそうな声が聞こえた。確かにそうだ。今からじゃスペルを取り出す時間もないし、俺は弾幕を出す事も出来ない。奇跡でも起きなければまず助からない。だが――。

「奇跡って起きるもんじゃない! 起こすもんだあああああ!!」

 知っていた。あの子は“奇跡”の力と言っていたがお守りを作ったのは彼女自身なのだ。つまり、彼女がお守りを作らなかったら神社も取り壊されていたし、俺も殺されていた。行動しなければ起きる奇跡も起きないのだ。

 手に持っていたお祓い棒を地面に叩きつける。

「「ッ!?」」

 するといきなり俺の周囲から突風が吹き荒れ、俺の体を浮かせ、吹き飛ばした。そのおかげで弾幕は大木だけを貫く。弾幕の勢いに負けた大木は根元から折れて地面に倒れる。その衝撃は大地を揺らすほどだった。

「ど、どうして?」

 突然の事で幼女は戸惑っていた。

「おい……妖怪」

 呼びかけながらお祓い棒を真っ直ぐ、戸惑っている幼女に向ける。

「始めるぞ。妖怪退治を――」

 口から流れた血を袖で拭いながら言い放った。

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 楼主| 发表于 2022-10-14 16:27:29 | 显示全部楼层
第19話 吹き荒れる神風

「よ、妖怪退治?」

「ああ、依頼されてな」

「……ぷっ! あはははは!!」

 急に笑い出す幼女。少し頭に来た。

「無理! 何人もの陰陽師が私を倒そうとしたと思う? 無理だって! しかも、そんな変な服で? やめと――」

「うるせーぞ。妖怪風情が……人間なめんな」

 そう言いつつ、イラッと来た俺は風を利用してお腹を抱えて笑っている幼女の頭上に高速移動し、脳天目掛けて踵を落とす。

「がっ!?」

 油断していた幼女は抵抗出来ずに踵落としを食らい、凄まじい勢いで境内に墜落した。

「秘術『グレイソーマタージ』」

 立ち上がりそうだったので追撃する事にした。宣言すると俺の周りに大きな青い星と小さな赤い星が現れた。その後、それぞれが分裂しいくつもの星が生まれ、幼女に向かって突進する。

「きゃあ!?」

 幼女の悲鳴が聞こえたが無視。自分でも容赦がないと思うがこれは殺し合いなのだ。相手の事など考えていたら自分が死ぬ。

「く……よくもやったね!」

 幼女はスペルを直撃しても服が少し破けるだけだった。それどころが反撃する為に弾幕を放って来る。やはり、弾幕ごっこ用では威力が足りない。ならば――。

(数で勝負!)

「奇跡『白昼の客星』!」

 真下にいる幼女に向かって弾幕をばら撒く。弾幕と弾幕がぶつかり、凄まじい衝撃波を生み出す。

「くっ……」

 押され始める俺の弾幕。このままでは押し切られてしまう。

(ど、どうすれば……)

 その時、真上からまたもや突風が吹き荒れる。突風は俺の弾幕の威力を上げて、向こうの弾幕を押し返す。

「さっきからどうなってんの!?」

 幼女は弾幕を放ちながら文句を言って来た。

「俺だって知るかよ!」

 風の後押しのおかげで俺の弾幕と向こうの弾幕の戦いが互角になる。弾がぶつかる度に衝撃波を放出。それに押されて俺はどんどん高度が上り、幼女の足元に亀裂が走る。

(埒が明かねー……)

 あちらもそう思ったようで地面を転がって斜め横から攻撃して来た。

「くそっ!?」

 体を捻ってバランスを崩しながらも紙一重で回避する。その間にスペルが時間切れになった。態勢を立て直す前に幼女が突っ込んで来る。

「弾幕が駄目なら格闘よ!」

 そう言いながら、右手を握っている。きっと、右ストレートだ。

 予測通り、右手を突き出して来た。咄嗟に下降気流を発生させ、急降下。幼女の攻撃を躱す。すれ違う瞬間に手に持っていたお祓い棒で幼女の背中を叩く。

「きゃっ!?」

 急に背中を叩かれた幼女は前のめりになった。相手は妖怪なのであまりダメージは与えられていない。だが、バランスを崩す事は出来た。体を無理やり幼女の方に回転させ、スペルを唱える。

「奇跡『ミラクルフルーツ』!!」

 俺の周りに花火のような弾幕が展開され、一気に周囲にばら撒いた。もちろん、幼女がいる方にも飛んで行く。

「ッ!?」

 幼女はまたもや何も抵抗出来ずに背中に弾幕を食らった。その後にもいくつかの弾幕が命中する。

「もういっちょ!」

 時間切れになったのを見計らって、今度は上昇気流を発生。それに乗り、瞬時に幼女の元へ移動する。勢いを殺さずにお祓い棒を突き出す。

「なっ!?」

 お祓い棒は幼女の背中を深く抉る。更に俺は腕を半回転させる。

「あがががががっ!?」

 腕の動きに合わせ、お祓い棒も回転し、幼女の体から不気味な音がした。背中の肉が回転するお祓い棒に巻き込まれ、ねじれたのだ。

「吹き飛べっ!!」

 俺の腕に沿って暴風が幼女に向かって吹き荒れる。幼女は弾丸のように上空へ高く吹き飛ばされた。

「おまけだ!」

 上昇気流から下降気流へ。対象は俺にではなく幼女。暴風に翻弄されながら幼女は背中から境内に叩き付けられた。衝撃で境内に小さなクレーターが出来、砂埃が舞う。

「……」

 ここで油断してはいけない。相手は妖怪だ。これぐらいで倒せたとは思えない。

「ふん……なかなかやるようね?」

「え?」

 下から幼女の声が聞こえた。しかし、おかしい。先ほどとは声質が変わっている。子供の声から大人の声になったような気がした。

「私も本気を出さなきゃ駄目かな?」

「っ!?」

 砂埃が晴れて幼女の姿が現れる。だが、幼女は美女に成長していた。ぶかぶかだったYシャツは胸が大きすぎてぴちぴち、ロングスカートは成長した事によりミニスカートに変わっている。

「ふふふ。この姿を見せるのは男の前だけよ?」

(いや、俺も男なんだが……)

「その姿で男を誘惑して誰もいない所へ連れ込み……喰う、てか?」

 言っても信じてもらえなさそうなのでスルーした。

「ご名答♪ 私は成長を操れるのよ」

 幻想郷では『成長を操る程度の能力』だと推測する。

「冥途の土産に教えてあげるわ。私の名前はリーマ。外の世界では珍しいクォーターよ」

「クォーター?」

「ええ。あ、勘違いしないでね? 人間の方が4分の1の方だから」

「半妖と妖怪の間に生まれた子供?」

 俺の発言を聞いてリーマが微笑む。正解らしい。

「妖怪の血が騒ぐの。人間を見るとね。だから食べる。それが妖怪でしょ? だから、貴女も食べてあげる」

「妖怪だからって人間を見境なく喰っていいわけないだろうが!」

「私だって見境なく食べてないわ。1か月に2人ぐらい。それに家族を持っていない男よ。私について来るのがそういうのしかいないから」

「消えたって怪しまれないって事か」

「ええ、しかも死体に手を加えて事故死に見せかけているわ」

 得意げに話すリーマ。



~華のさかづき大江山~



 巫女服から下は青い生地に赤い筋がいくつも通った半透明のスカートに上は体操服のような半そで。おでこから1本の赤い角が生える。鬼のようだ。左手には半透明の液体が並々と注がれている杯を持っている。

「また変身した?」

「確かに……妖怪は人間を喰う」

 リーマが目を見開いて驚いているが無視して俺は自分の言いたい事を言う。

「それは避けられない。妖怪は人間を喰う種族だ。恨むのはお門違いってもんだ。だがな……」

 そこまで言って杯を口元へ運ぶ。液体は俺が大好きなア○エリアスだった。酒かと思ったのだが気のせいだったようだ。

「ぷはっ! 今日は依頼されているのでな。それが俺の戦う理由だ。元々、妖怪退治なんぞに興味はねー」

 もっと言うと戦いたくない。コスプレしなければいけないからだ。

「そ、それだけ?」

「……ああ。もうひとつあった。お前、ここを住処にしてるだろ?」

「そうだけどそれが?」

「ここは大切な場所だ。妖怪の好きなようにはさせない」

 重心を低くし、右手を握る。いつでも駆け出せるように足に力を入れる。

「鬼の力を妖怪が防ぎ切れるか楽しみだ」

 このコスプレになってから闘争心が溢れて来るようになった。鬼だからだろうか。

「お、鬼? 貴女は何者なの?」

「俺か? 俺はただの社員だ」

「社員?」

「ああ、知らないと思うけどボーダー商事ってとこ「ぼ、ボーダー商事!?」

 知っていたらしい。

「あ、あの……幻と呼ばれた妖怪が作ったと言われるあの?」

「い、いや……そこまでは知らないけど」

 紫は外の世界でも有名なようだ。

「変身は貴女の能力よね?」

「あ、ああ……」

 リーマの顔から余裕が消えた。少しまずい。油断している所に鬼の拳から繰り出される渾身の一撃で決める予定だったのだが、これほど警戒されては当てるのは難しい。

「時間制限があるんじゃない?」

「……」

 痛い所を突かれ思わず、黙ってしまった。

「図星のようね。じゃあ、その時間切れを狙いましょう」

「くそっ!」

 次の曲で勝てる保障はない。力で妖怪に勝るものは鬼ぐらいしかいない。地面を蹴って、一気に跳躍。脚力が凄まじく、境内にまた穴が開いた。そして、一瞬にしてリーマの懐へ潜り込む。右手を思いっきり引いて勢いよく突き出す。

「よっと……」

 顔面を狙ったパンチはリーマが成長を操ってまた幼女になり、背丈が低くなった事によって躱された。

「えいっ!」

「うわっ!?」

 勢いが余ってバランスを崩している所へリーマは足払いをして来た。その後、顔からこけた俺の背中に飛びつく。

「は、離れろ!?」

「嫌だもん!」

 暴れてもリーマは頑なに離れる事はなかった。このままでは時間切れが来てしまう。何かリーマを振りほどく手立てはないかと境内を走り回る。

(こうなったら!)

 俺は足に力を入れて思い切り真上へジャンプした。

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 楼主| 发表于 2022-10-14 16:34:13 | 显示全部楼层
第20話 ヒマワリ

「え? 何? 何をする気?」

 遥か上空へ飛び上がった俺とリーマ。下を見れば神社が豆粒のようだった。リーマは不安そうに聞いて来る。

「何って……こうすんだよ!」

 そう言いながら、頭を真下に向けて急降下する。

「ぎゃああああああああっ!!」

 例えるならジェットコースター。リーマは迫り来る地面に恐怖を感じたのか悲鳴を上げながら何とか俺の背中から離れようとする。それを俺は右手で押さえた。

「離して! 離してくださいいいいいい!!」

「嫌だよ!! 俺だって怖いんだよ!!」

 口論しながらも地面はもう目の前まで迫っている。

(1……2……3!!)

 タイミングを計って前に縦回転。顔を空の方へ背中を地面の方へ向ける。回転の際に右手はリーマから離れていた。

「がッ……」

 背中にいたリーマが境内に叩き付けられ、先ほど出来たクレーター以上の大きさのクレーターが出来る。

「ぐっ……」

 直接、地面にぶつかっていないが俺にも衝撃が襲う。背骨が嫌な音を立てる。お互いに動けなくなり、数秒間そのまま倒れていた。

「ど、どうだ……これで」

 何とか立ち上がってリーマの様子を伺う。リーマは目を閉じていた。気絶でもしたのだろう。

「へ……」

 そう思った刹那、リーマがニヤリと笑った。

「しま――」

 急いで離れようとしたが時すでに遅し。地面からツルのような植物が飛び出し俺の手足を拘束した。

「残念でした~!」

 リーマはケロッとした表情で立ち上がる。そのしたにはばねのように螺旋を描いたツルが生えていた。あれで衝撃を吸収したらしい。

「せ、成長か……」

 鬼の力で引き千切ろうとしたが思うように力が出ない。

「その通り! 私は自分の体だけじゃなくて植物の成長も操れるのだ! あ、そのツルの棘には神経毒が含まれてて力がいつもより出ないようになってるから気を付けて!」

「くそ……」

 また新たなツルが飛び出し、俺の首に巻きついた。

「のわッ!?」

 そして、後ろに引っ張られ仰向けに倒れてしまう。

「……こんな状況でも盃を離さないんだね?」

「離れないんだよ」

「? まぁ、いいや。どうやって殺そうかな? ツルで串刺し?」

「もっと安らかに眠られるような死に方にしてくれないか?」

 時間を稼ぐのだ。鬼の力では太刀打ち出来ないのでは次の曲にかけるしかない。

「え~! どうしよっかな~?」

 調子に乗っているリーマ。ニヤニヤしながらこちらを見て来る。

「……さんきゅな」

 俺はリーマに向かってお礼を言った。

「え? 死にたかったの?」

「断じて違う」

 もう感覚でわかる。次の曲に移行しようとしている事が。



~今昔幻想郷 ~ Flower Land ~



 服が輝き、下は赤いチェックのロングスカート。上は白いシャツにスカートと同じ柄のベストを着ている。更に右手に日傘を出現した。

「うわっ!? 吃驚した!」

(頼む!)

 祈りながら体に力を入れる。

「もう遅いよ!」

 リーマの足元から鋭い棘を持ったツルが生えて真っ直ぐ俺の腹に向かって来る。

「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 目を瞑って絶叫する。力を入れてもツルは千切れなかったからだ。

(……え?)

 このような大ピンチの状況で頭の中に浮かんできたのはヒマワリだった。しかも、一輪ではなくヒマワリ畑だ。何故か懐かしさを感じる。

「え?」

 不思議に思っているとリーマの声が聞こえた。あれから何も起きていない。ゆっくり、目を開ける。

「っ!?」

 息を呑んだ。俺を拘束しているツルからも俺を襲おうとしているツルからもたくさんのヒマワリが生えているのだ。

「な、何……これ?」

 驚愕しているリーマの足元からもヒマワリが生える。他の所からもヒマワリが次々に生えた。

「こ、これは……」

 自分自身も驚く。

「あ、ツルが……」

 ヒマワリに栄養が取られた事によってツルはいとも簡単に千切れた。

「や、やばっ!?」

 俺が立ち上がったのを見たリーマは空を飛んで逃走。

「逃がすか!!」

 俺も空を飛ぼうとした矢先、神社を潰した大木からこれまた、たくさんのヒマワリがリーマに向かって伸び始めた。

「げっ!?」

 ヒマワリがリーマに追いつき、手足に絡みつく。リーマは大人の姿に成長し手で引き千切っているが量が多すぎた。

(チャンス!)

 咄嗟に日傘の先をリーマに向ける。先端にエネルギーが充電され始めた。

「な、何だ?」

 意味が分からないので止める事が出来ない。困惑している間にもエネルギーがどんどん膨れ上がる。

(も、もしかして……)

 思い起こされるのは魔理沙の『ファイナルスパーク』や人里で妖怪を倒したあの技。

「もうどうにでもなれええええええええええ!!!」

 腰を低くし、衝撃に備える。

「あ、あれは……やばい!?」

 こちらに気付いたリーマは逃げる為にヒマワリを力いっぱい引き千切るがヒマワリも次々に絡みつく。

「いっけえええええええ!! 元祖『マスタースパーク』!!」

 頭に浮かんだ単語をそのままスペル名にした。俺の声に合わせて日傘から極太レーザーが撃ち出される。レーザーは衝撃波を放出しながらリーマ目掛けで突進する。

「ちょ、ちょっと、ま――」

 リーマが何か、言う前にレーザーが着弾した。



「いたた……」

「大丈夫か?」

 戦いの後、俺とリーマは神社のお賽銭箱に腰掛けていた。

「本当に……あんなの躱せる訳ないじゃない」

「いや、だから撃ったんだけど」

 大人リーマはぷんぷんと怒っている。レーザーを食らってかすり傷と少し服が破けただけで済んだのはすごいと思う。あの後、倒れたリーマの喉に日傘の先端を向けた結果、降参したのだ。

「で? これから私をどうするつもり?」

 目を細めて聞いて来た。

「……さぁ?」

「さぁ、じゃないわよ!」

「仕方ないだろ? 俺はただお前を退治しろって言われただけなんだから」

「私から説明させてもらうわ」

「「うわっ!?」」

 俺とリーマの間から紫が出て来た。

「や、八雲 紫!?」

「ごきげんよう。どう? 私の社員、強いでしょ?」

「あれは運がよかっただけだって……」

「彼女はそう言ってるけど?」

「彼女は謙虚なのよ」

「……あれ?」

 紫のセリフに違和感を覚える。リーマは俺の事を女だと思っているから『彼女』と言っても仕方ない。だが、紫はどうだ。知っているのにも関わらず俺の事を『彼女』と言った。

「あ、少し待っててね」

 リーマにそう言って紫が俺の腕を掴んで歩き始めた。

「お、おい!?」

「貴方に大事な話があるのよ」

 紫がずんずんと前に進む。因みに境内は今、大量のヒマワリに埋め尽くされており綺麗だ。



「で? 話って?」

「はい、これ」

 紫はスキマを展開させ、その中に手を突っ込んで何かを取り出した。

「これは?」

「万屋の仕事の時に使用可能なスペルよ。話の途中であの子が襲って来たからね。渡せなかったのよ」

「そうか……さんきゅ」

「後、これも」

 先ほど貰ったスペルより何倍もの厚さがあるスペルの束を差し出して来た。

「こ、今度は何だ?」

「貴方がコスプレした人の名前が書いてあるスペルよ。貴方が何に変身するか相手が分からないと不公平じゃない?」

「俺も知らないんだが?」

「いいからコスプレした時に該当するスペルが貴方の目の前に出現するからそれを唱えればいいのよ」

「……わかった」

 俺も自分が変身した人の名前を知りたかったのだ。丁度、良かった。

「いいか?」

「もう3つあるわ」

「まだあんのかよ……」

「1つ。貴方が外の世界から来ている事を幻想郷では言わない事。2つ。自分の能力名を言わない事。3つ。自分が男である事を言わない事。これだけよ」

「……」

 1つ目はわかる。行き来している事がばれたら『外の世界に行ってみたい』みたいな依頼が来る可能性が高いからだ。

 2つ目もわかる。自分自身でもよく分からない能力だ。言っても得する事なんてない。なら、言う必要などないのだ。

 うん。問題は3つ目だ。

「な、何で男って言っちゃ駄目なんだよ!!」

「思い出してみなさい。弾幕を出していたのはどんな子だった?」

「ど、どんな子って……」

 思い浮かぶ少女たちの顔。

(お、女だけ……だと……)

「そう言う事。まぁ、頑張って」

 紫はそのままリーマの元へ戻って行った。

(う、嘘だろ……自分から言っちゃ駄目なんて……気付かれなかったらどうすんだよ)

 一瞬、男でも女でも仕事に影響がないと気付くが首を振って否定する。俺がそれを認めてしまったら幻想郷で俺は女扱いされてしまう。

(待てよ?)

 幻想郷で俺が男だと知っているのは紫、ミスティア。そして――。

「霊夢?」

 霊夢との会話を思い出した。霊夢は途中から俺の事を『貴方』と言っていた。つまり、気付いている。

「でも……何で?」

 紫とリーマが来るまでヒマワリ畑を眺めながら悩んだが何も思いつかなかった。
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 楼主| 发表于 2022-10-14 16:38:39 | 显示全部楼层
第21話 初仕事は料理人

「じゃあ、いってきま~す!」

「いってらっしゃ~い! お仕事、頑張ってね~!」

 俺の学校が夏休みに入ってから3日が経った頃、とうとう依頼状が届いた。その依頼の為にこれから幻想郷に向かう。

 因みにリーマとの戦いで負った怪我は幻想郷の薬剤師のおかげできれいさっぱり消えている。おかげで望にもばれずに済んだ。

「……に、してもこの依頼は何だ?」

『博麗神社に集合』

「これだけって……」

 送り主は不明。内容も不明。集合時間は4時。

「時間だけわかっても……」

 呟きながら近くの公園に到着する。急いでトイレへ駆け込み、個室に入った。

「はぁ~……」

 誰にも見られないとはいえ、コスプレするのは嫌だ。だが、仕事なのだから仕方ない。ホルスターを左腕に取り付けてイヤホンを引っ張る。それを両耳に装着しスペルを取りだす。

「移動『ネクロファンタジア』」

 出来るだけ小声で唱え、変身する。もう一度、溜息を吐いて扇子で空間を撫でた。博麗神社の場所が分からないので適当に座標を合わせる。そして、嫌な音を立てながらスキマが開かれた。

(そうだ……霊夢に会ったらあれ、聞くか)

 そう考えながらスキマに飛び込んだ。

「……まぁ、こうなるわな」

 いきなり、上空に投げ出された。下を見れば大自然が広がっている。

(このまま飛んで行ってもかまわないんだけど……)

 この前、紫から貰ったスペルを確認する。

(これが『速達』でこれは『探し物?』。この曲って鬼になるんじゃなかったっけ?)

 不思議に思ったが気にしない事にした。

「速達『妖怪の山 ~ Mysterious Mountain』!」

 紫の服から天狗の服に早変わり。

(一気に行くぜ!)

 翼を大きく広げて博麗神社を探す為に適当な方向へ移動し始める。何だかんだ言って楽しんでいる自分に気付かない俺だった。



「はぁ……はぁ……」

 1時間後、ようやく博麗神社を見つけた。途中で唐傘お化けが現れて『うらめしや~』と脅かして来た。驚かなかったら半泣きになり機嫌を取るのに時間がかかってしまったのが原因だ。いや、あれでも20分ほどだったから迷ったのが一番の原因か。

「ギリギリね」

「あ?」

 博麗神社のお賽銭箱に背中を預けていたら紫がスキマから出て来た。

「も、もしかして……」

「ええ。私が依頼主よ。何よ? 露骨に嫌な顔しなくても……待って! スキマを使って帰ろうとしないで!」

「冗談はさておき……要件は?」

耳からイヤホンを引っこ抜きながら聞く。

「その前に聞くわ。貴方、料理出来る?」

「……は?」



「たくっ……」

 ここは博麗神社の台所。鍋の中でぐつぐつと豆腐が揺れているのを黙って見つめている俺。

「すいませ~ん! 湯豆腐、追加お願いしま~す!」

「今、やってるよ」

 その時、居間の方から橙がやって来た。そう、俺は今料理を作っている。2時間ほど。

「後、酢豚とから揚げ、お願い。一人で無理なら2回に分けても大丈夫だから」

「はい! わかりました!」

 豆腐をお湯から引き揚げながら指示を出す。橙は笑顔で返事をし、酢豚を持って行った。

「……本当に何しているんだろ? 俺」

 紫からの依頼は宴会の料理を作る事だった。どうやら、博麗神社ではしばしば宴会が開かれるそうでその席で俺の紹介をしたいそうだ。だが、いきなり顔を出さずに料理で好印象を狙う作戦らしい。

(料理って……)

 ますます女に見られそうだ。

「橙! 湯豆腐、出来たぞ!」

「はい! ただいま!」

 汗だくになりながらも黙々と料理を作り続ける。2時間も働いていたら当たり前だ。それに博麗神社の台所は竈だ。最初に藍から使い方を教えてもらったが難しい。それも手助けしていつもより疲れていた。

(紫はいつ、来るんだろうか?)

 『呼ぶまで作り続けなさい』と命令されているので下手に動けない俺だった。



 一方、紫は――。

「もう、飲めないわよ~……むにゃ」

 寝ていた。

「今日はやけに潰れるのが早かったわね?」

「そうだな。何やらはりきっていたし……何かあんのか?」

 霊夢の呟きに魔理沙が答えた。

「ほら! 霊夢さん、空いてますよ!」

「ああ、ありがと」

 外の世界で響と戦ったリーマが霊夢のコップに日本酒を注ぐ。リーマは現在、高校生ぐらいの年齢だ。紫に『幻想郷に来ないか』と誘われ、やって来たのだ。そして、霊夢が幻想郷での最重要人物と聞き、媚を売っている。

「に、しても外の世界にもまだ妖怪なんているんだな」

「数は少ないけどいるみたいね。私は会った事ないけど」

「私にはタメなのか?」

「だって、紫さんにそう言われたから」

「よし! 耳元でマスパ、放つか」

 魔理沙がニヤニヤしながらミニ八卦路を取り出す。標準はぐっすり眠っている紫。

「え!? それはさすがに……」

「やめときなさい。死にはしないけど神社が壊れる」

(ゆ、紫さんより神社!?)

 リーマは心の中でツッコむが口には出せなかった。

「湯豆腐、お持たせしました!」

 元気よく橙がお皿を持って来た。

「……」

「霊夢?」

 魔理沙が酒が入ったコップを傾けながら聞く。

「今、気付いたんだけど……料理、誰作ってるの?」

「誰ってメイド長とか?」

「私がどうしたの?」

 橙から湯豆腐を受け取っていた咲夜が首をこちらに向けて問いかけて来た。

「……違ったな」

「?」

「じゃあ、妖夢……はあそこで酔っぱらいながら踊ってるし。後は藍……もあそこで紫の世話してるし」

「あ! アリスとかじゃ? 人形操ってさ!」

「あそこ……」

 魔理沙の閃きを聞いた霊夢はちょんちょんと指さした。

「うげっ!?」

 アリスは静かに壁に寄りかかって寝ていた。問題は人形たちである。アリスはどうやら魔力で出来た糸を放出したまま寝てしまったようで指が動く度に人形が弾幕を放っているのだ。

「あれはまずいぜ!」

「上海と蓬莱が半分自立していてくれたおかげなのか2体で押さえている状態だけどいつか、こっちにも被害が及ぶわね」

「お任せください!」

 慌てている魔理沙とお酒を飲みながらから揚げを食べている霊夢の横で急に立ち上がったリーマ。

「行きますよ!」

 返事を待たずに神社の畳に両手を付けたリーマ。その瞬間に畳から多数のツルが飛び出した。ツルは暴走する人形たちをぐるぐる巻きにし墜落させた。

「ふん! 霊夢さん! やりましッいで!?」

「畳に穴開けんじゃないわよ! どうしてくれるの!」

 リーマにお札を投擲し、おろおろする霊夢。

「アリスでもないか……」

 地面でまだじたばたしている人形を部屋の隅にどけながら魔理沙が呟く。

「じゃあ、誰が……?」

 霊夢はざっと会場を見渡したが料理が出来る人や妖怪は仲のいい奴としゃべりながらお酒を飲んでいる。

「竜田揚げ、お待たせしました~!」

((も、もしかして……ちぇ、橙!?))

 考えれば考えるほど訳が分からなくなる霊夢と魔理沙だった。
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 楼主| 发表于 2022-10-14 16:50:55 | 显示全部楼层
第22話 人間、やろうと思えば何でも出来る

「……」

「もぐもぐもぐもぐもぐもぐ――」

 思わず、家から(スキマに手を突っ込んで)持って来たお玉を落としてしまった。

「て、てめぇ……」

 目の前で短い金髪の黒いワンピースを着た少女がエビフライをバクバク食べている。しかも、手で直接。

「ん?」

 こちらに気付いた少女はエビフライを咥えながら首を傾げる。

「……」

 なんと声をかけていいかわからず、沈黙する俺。

「…………もぐもぐもぐもぐ――」

「待て待て待て~い!!」

 今度は少女の腕を掴んで止めた。

「何なのだ~? こっちは食べるのに忙しいの~!」

「作った傍から食われて文句がない奴はいない!」

「え? これ、貴女が作ったのか?」

「そうだよ。ああ、そんなに手、ギトギトにして! ほら、洗いに行くぞ!」

 もちろん、こんな所に水道はない。外の井戸まで行かなければならないのだ。

「うん! わかった!」

 少女は素直に頷くと俺の後を飛んでついて来た。



「何で直接見に来るって方法を思いつかなかったんだろうな」

「お酒で頭の回転が遅くなってるんじゃない?」

 それもそうかと大笑いする魔理沙。それを霊夢は無視して台所へ入った。

「あれ?」

 しかし、竈に火はついているが誰もいない。

「いないじゃんか。トイレか?」

「竈の火をそのままにして行くかしら? 普通、誰かに頼んで火、見ててもらうんじゃ?」

「確かに……ん?」

 その時、魔理沙の目に食べかけのエビフライが映った。

「……霊夢?」

「何?」

「居間にルーミア。いたか?」

「え? う~ん……どうだったかしら? でも、なん……」

霊夢もエビフライに気付く。

「ありえないでしょ? 神社の中で」

「そう、神社の中じゃなかったらいいんだ。博麗神社の外に連れ出して……」

「連れ出す前に倒されるわ」

「いつもメンツならな」

「……まずいわね」

「だろ?」

 霊夢と魔理沙は急いで居間へと戻って行った。



「つめた~い!」

「我慢しろ」

 少女の手を丁寧に擦って油を落としている俺。石鹸があればいいのだがそんな物あるわけもなくただごしごしと擦っているだけだ。

「う~……お腹すいた」

「はぁっ!? あんなにエビフライ、喰ったのにか!?」

(10本は軽く超えてたぞ……)

「貴女は食べてもいい人間?」

「人間、喰わないだろ。普通」

「妖怪は食べるよ。普通に」

「あ、妖怪?」

「うん、妖怪」

「へ~」

 今更、驚く事もない。先ほども飛んでいたのだから。

(あれ? もう、妖怪が当たり前になってる!?)

 妖怪少女の手を洗いながらここまで毒されているのかと落ち込んでしまった。

「どうしたの?」

「い、いや……何でもない」

「あ! 料理、作って!」

「は?」

「だから、私だけに料理、作ってよ!」

「いいけど……あの食材、使えねーぞ?」

 台所の食材は紫が用意した物だ。あれを勝手に使うのは駄目だと思う。

「え~!? じゃあ、どうすればいいの!?」

「自分で持って来い。そしたら、作ってやる。はい、もういいぞ」

「わかった! “狩って”来る」

「おう! 行って来い」

(妖怪でも“買って”来られるんだ……)

 この後、俺は地獄を見る事になった。



「……いねーな」

「そのようね」

 居間にルーミアの姿はない。不安になって来た魔理沙とどうでもよくなって来た霊夢。

「ちょっと、探して来る!」

「いってらっしゃい」

「お前も行くんだよ!」

「嫌よ。面倒くさい」

「いいから!」

「どうしたんですか?」

 霊夢の腕を掴んで縁側から飛び立とうとしている魔理沙に少し顔を赤くした早苗が声をかける。

「実はな――」

 宴会の料理を作っている人がルーミアに襲われたかもしれないと魔理沙は早苗に説明した。

「それは放っておけません! 私もお手伝いさせていただきます!」

「さんきゅ! じゃあ、3つに分かれて探すぞ!」

「え~……私も入ってるの? めんどうね」

 そう言いながらも霊夢は人里の方へ飛んで行った。

「私は妖怪の山へ行きます!」

 それに続いて早苗も飛び去る。

「よっしゃ! 魔法の森へ行くぜ!」

 箒に跨り、魔理沙もルーミアを探して夜空を駆け抜けた。



「……おいおいおい? これは一体、何の冗談だ?」

「えへへ! すごいでしょ!」

 妖怪少女は買い物に行ったのではなく狩りに行った事が目の前の物体を見て分かった。

「それにしても……イノシシって」

 博麗神社の台所に大きなイノシシが横たわっている。

「捕まえるの大変だったんだよ? 早く、作って!」

「作れって言われても……どうやって捌くんだ?」

「え……作れないの?」

「う……」

 妖怪少女が目をうるうるさせてこちらを見上げた。俺は少しこう言うのに弱い。

「……わかったよ。やってみるけど期待すんなよ?」

「うわ~い! イノシシだ~!」

(聞いちゃいね……)

 両手を真上ではなく真横に伸ばしてそこら辺を飛び回る妖怪少女。その前で俺は1つ、深い溜息を吐いた。



「うわ~お……出来ちゃったよ。おい」

「うわ~! おいしそう!」

 妖怪少女――ルーミアの目の前にはイノシシの生肉がずらりと並んでいる。捌いている途中に自己紹介をして来たのだ。

「おい、まだ喰うなよ。火、通してないから」

「いいよ~! このままでも~」

(さすが、妖怪……)

「いや、調理した方が絶対、美味いから」

「ん~……じゃあ、我慢する」

「よし、いい子だ。でも、さすがにこれだけの量、喰えないだろ?」

「食べられるけど食べてる途中で料理が冷めちゃうと思う」

「あ、そっち? あれ、そっちなの?」

 質問するけどルーミアは目をキラキラさせて生肉を見ていて聞いていなかった。

「……作るか」

(つっても……イノシシ料理知らねー……)

 重大な事に気付く俺。

「る、ルーミア? 何、喰いたい?」

 本人に聞いてみる。

「肉」

「わかってるよ! 具体的な料理を言え!」

「何でもいいからお腹いっぱいになりたい」

(駄目だ……どうしよう)

 数秒間考えた後、いい方法を思いついた。

「なぁ? ルーミア?」

「何?」

 生肉を凝視しながら返事をする妖怪少女。

「友達……いるか?」



「紫様! 起きてください! そろそろ響を紹介しないと!」

「う~ん……まだ朝よ」

「夜中です!」

 私は紫様の体を揺すって起こそうとするが目を覚ましそうにしない。このままでは響を紹介する前に居間にいる全員が酔い潰れてしまう。

「私が代わりに紹介しますよ? いいですか?」

「おねが~い……」

 紫様はそう言うとまた眠りについた。

「全く……」

 溜息を1つ、吐いて台所に足を向ける。今でも響は料理を作っている事だろう。

「響! ちょっと来て……あれ?」

 しかし、予想は外れて台所には誰もいなかった。

「トイレ……か。竈の火も消えているし」

「藍様? どうかしましたか?」

 推測していると橙が空いた皿を抱えてやって来た。今回の宴会の幹事は魔理沙ではなく紫様なので私たちが響のお手伝いをしている。

「ああ、響を呼びに来たんだけど……見てないか?」

「いえ、先ほどから見当たりません」

「むぅ……どこに行ったんだ?」

 しばらくの間、台所で待っていたが響は姿を見せなかった。

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 楼主| 发表于 2022-10-14 16:53:28 | 显示全部楼层
第23話 焼肉

「チルノ! 石を氷漬けにするな!」

「え~! おもしろいのに?」

「続けたければ続ければいい。ただし、焼肉が遠ざかると思え」

「チルノ! 真面目にやろうよ!」

「あ、あれ? ルーミアがめずらしく、やる気だ!?」

「響さん。これでいいでしょうか?」

「う~ん……鉄板、もう少し右寄りで。ああ、大ちゃん。それが終わったら悪いけど台所から何か火種、持って来てくれる?」

「はい! わかりました!」

「居間からお皿、持って来たよ~!」

「さんきゅ、リグル。後はミスティアのタレ待ちか……」

 俺の周りにはルーミアの友達であるチルノ、大ちゃん、リグルがいる。今はいないがミスティアが自分の屋台から焼肉に合いそうなタレを持って来てもらっていた。その間に俺たちは石を積んで即席の竈を作り、その上に鉄板が乗るようにしている。

(まさか……ミスティアと再会するとはな)

 ルーミアが連れて来た時は驚いた。向こうも同じだったらしく目を見開いていた。

「このテッパンも凍らせたらどうなるのかな?」

「その瞬間、お前がルーミアに喰われるだろう」

 俺の隣でルーミアがコクコクと頷く。

「ぶぅ~!」

 つまらなさそうに頬を膨らませるチルノ。

「拗ねても駄目」

「火種、貰って来ました~!」

 そこへ大ちゃんが大量の新聞紙を抱えて帰って来る。

「さんきゅ。それを鉄板の下に入れてくれ」

「はい!」

 大ちゃんが新聞紙を入れたのを確認してから森で拾った小枝を投入する。

「火、つけるぞ~!」

≪おお~!!≫

 俺の掛け声に5人は手を上げて答える。

「待って~!」

 マッチを取り出した所でミスティアが到着する。

「お疲れ~」

「これでいい?」

 ミスティアからタレを貰い、それぞれの皿に注ぐ。

「皿は自分で持ってろよ?」

 注意しながらマッチに火を灯し、竈へ投げ入れた。少ししてから竈から煙が上がる。

「ついた!」

 チルノは目をキラキラさせて竈の中を覗き、ルーミアは涎を垂らしながら生肉を鉄板へ――。

「こら! ルーミア、まだ肉入れるな! もう少し温めてから!」

 ギリギリの所で羽交い絞めにし止める。

「え~!」

「もう少しだから我慢しろ!」

「……わかった~」

 ルーミアが落ち着いたところで鉄板の方を見るとミスティアが腕を伸ばしていた。

「温度?」

「うん。やっぱり、もう少しかな?」

「さすが屋台主」

「いや~! それほどでも~!」

 頭を掻きながら照れるミスティア。こいつとは仲良くやって行けそうだ。

「そう言えば、どうして響は宴会の料理を? とても美味しかったけど」

「さんきゅ、ミスティア。ところで……名前、略していい? なんか呼びづらい」

「い、いいけど……」

「じゃあ……」

 ふと悟がミスティアの事を『ミスチー』と呼んでいたのを思い出す。

「ミスチーでいい?」

「う、うん……いいよ」

「で、さっきの質問の答えなんだけど……幻想郷で万屋やる事になってな。これが一番、最初の仕事」

「え!? 万屋!?」

 ミスチーの大声に他の奴もこちらを向く。

「響さん。万屋、やるんですか?」

 心配そうに大ちゃんが聞いて来る。

「あ、ああ……」

「え~! こんな人間がヨロズヤなんてできるの?」

「絶対、お前は万屋の意味をわかっていない」

 鉄板がいい感じになって来たので油を引いてからミスチーと手分けして肉を並べる。ルーミアの涎の量が増えた。

「ふ、ふん! それぐらい知ってるもん! わたしと弾幕ごっこしなさい!」

「はっ!?」

「だ、駄目だよ! チルノちゃん! 人間相手に勝負を挑んじゃ!」

「大丈夫だと思うよ?」

 注意した大ちゃんを否定したのはミスチーだ。

「え?」

「だって、響は私に勝ったもん。多分、ここにいる全員より実力は上よ。それに前に人里で起きた異変も響が解決したんだし」

「え、ええええええええええええ!?」

 リグルが驚いて叫んだ。大ちゃんは口をわなわなさせていて声すら出せていない。

「お、おい! 何で知ってんだよ!」

 肉をひっくり返しながら問いかける。ルーミアの足元に涎の湖が出来始める。

「だって……ほら、ここにいるの響でしょ?」

 ミスチーは大ちゃんが持って来た新聞紙を突き出して来た。乱暴に受け取ってミスチーが言っていた場所を確認する。



・この間、起きた妖怪の群れが人里を襲う『脱皮異変』。名前はこの妖怪が脱皮をして復活する事から名付けられた。この異変を解決したのは博麗の巫女である博麗 霊夢。里の守護者の上白沢 慧音。竹林の健康マニア、藤原 妹紅。あと一人いるのだが、現在行方不明である。3人に名前を聞いたが本人に迷惑がかかると拒否されてしまった。だが、その人物らしき人影を撮影する事に成功した。



 文章はここで終わっており、上には大きな写真があった。凄まじい暴風の中、黒い人影が右手を真上に向けており、その手に括り付けられている棒らしき物からどでかいレーザーを放っている。周りに結界を貼っている霊夢と妹紅を羽交い絞めにしている慧音がいた。

「お、俺だああああああ!!」

 ルーミアの皿に焼けた肉を盛り付けながら項垂れる。

「やっぱり……こんな事、出来るの響しかいないもん」

「確かに本人なら人里でこんな技、使わないもんな」

「す、すごいです! これなら万屋も出来ます!」

「うん! きっと出来るよ! 妖怪退治の依頼も来そうだね!」

「だから、嫌なんだよおおおおおお!!」

 大ちゃんとリグルの発言を叫んで否定。ルーミアは箸を使わずに手で肉を掴んで食べている。とても満足そうで何よりだ。

「いいわ! わたしと弾幕ごっこしなさい!」

「あれ!? チルノちゃん、話聞いてなかったの!?」

「寝てたわ!」

「話が長すぎたようだな」

 チルノなら仕方ないと納得してしまった。

「いいから! 早く!」

「はいはい……ミスチー、頼む」

「わかった。ルーミアでしょ?」

「ああ、皿を突き出しているし」

 ルーミアの事はミスチーに任せて立ち上がった。

「大ちゃんもリグルも適当に食べておいて」

「は、はい!」

「わかった」

 チルノはもう飛び上がっていてやる気十分だ。

「ルールは?」

「スペルカードは4枚。当たるか落ちるか全部ブレイクした方の負けでいいわね?」

「おう」

 PSPからイヤホンを伸ばし耳に装着。

「……飛ばないの?」

「今は飛べないんだ。後で飛ぶ」

「あ! 私が合図出しますね~!」

 大ちゃんが手を挙げてアピールする。

「頼む」

「それじゃ~! 始め!」

 大ちゃんの合図と同時にPSPを操作し曲を流す。すると、目の前に光り輝いたスペルカードが出現する。

「い、いきなりスペル!?」

リグルが驚くが無視して掴み取り、大声で宣言した。

「亡き王女の為のセプテット『レミリア・スカーレット』!」

 服がピンクのワンピースにドアノブのような帽子。背中に漆黒の翼が生えた。変身が終わると同時にチルノに向かって飛ぶ。不意に後ろを見た。

「へ、変身!?」「す、すご~い!」

 大ちゃんとリグルの声が聞こえる。その後ろでは――。

「もっと!」

「はいはい。これもいいよ。でも、これは駄目」

 ルーミアがミスチーにお肉を取って貰っていた。

「ふ、ふん! 変身がどうしたって言うの!! これでも食らえ! 凍符『パーフェクトフリーズ』!」

 チルノはチルノで叫びながらスペルを発動。これは脱皮異変の時に俺が出した技だ。その場に留まって弾を躱す。そして、弾が止まった所で懐からスペルを取り出す。

「神槍『スピア・ザ・グングニル』!」

 宣言した後、右手に紅い槍が現れて思いっきりチルノに投擲した。

「うそっ!?」

 止まった弾を蹴散らしてチルノに被弾。神社の境内に墜落した。

(ごめんな……俺も肉、喰いたかったんだ)

 心の中で謝りながら焼肉会場へ戻る俺であった。

 その後は普通に焼肉を楽しみ、チルノ達に万屋を宣伝してから無断で帰った。居間をちらっと覗いたら紫が寝ていたからだ。無責任にもほどがある。







「へ~……なかなか面白い奴だったね。今の」

「ああ、まさかこんな所に来るとは運命って奴かね~」

「会ったら喜ぶかな?」

「口が塞がらなくなると思うぞ?」

「それもそうだね~!」

 縁側からチルノとの戦いを見ていた人がいたなんて俺は知らなかった。そして、この人たちがあいつと再会させるきっかけとなる事も――。

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 楼主| 发表于 2022-10-14 17:01:04 | 显示全部楼层
第24話 強いられた再会

 翌日、スキホにメールが来た。紫からではなく依頼だ。依頼が来るのは喜ばしい事なんだが――。

「これは……」

 内容は弾幕ごっこの練習相手。どうやら、宴会の時のチルノとの戦いを見られていたようだ。

「場所は妖怪の山の頂上付近にある神社、か」

 今、幻想郷の上空。時間は午前9時。弾幕ごっこの練習相手がどれほど時間を食うかわからないので望には遅くなると言っておいた。集合時間は午前11時半なのだが、迷って遅れてはいけないので早めにやって来たのだ。

「スキホに幻想郷の地図……入れてもらおう」

 決心してから天狗の姿で空を飛ぶ。



「じゃあ、早苗行って来る!」

 午前11時。神奈子が台所にいる早苗に声をかけた。

「え? どこへですか?」

 台所から顔を覗かせて早苗が質問する。

「天狗と宴会があってね~!」

 それに諏訪子が答えた。

「じゃ、じゃあお昼ご飯は?」

「ごめんね~! いらないや」

「そうですか……どうしましょう? 食材が余ってしまいます」

 早苗がシュンとなって呟く。手にお玉を持っているのでお昼ご飯を作っている途中だったらしい。

「あ! なら、これから来る万屋さんにでも出せば?」

「万屋、ですか? え? これから?」

「ああ、早苗の弾幕ごっこの練習相手になって貰おうと思って」

「ええ!? そんな事、いつ決めたんですか!?」

「昨日の宴会の時だよ。そう言えば早苗、居なかったね」

「は、はい……人探しをしていました」

 その人探しが不発に終わったのを思い出し、俯いてしまう早苗。

「人探し?」

「はい、実は――」

 早苗が昨日の事を2人に話す。

「ああ、多分宴会の料理を作ったのもその万屋さんだと思うよ?」

「え? そうなんですか?」

「ああ、昨日の宴会は珍しく八雲紫が開いたんだ。きっと、万屋の宣伝でもさせるつもりだったんだろ?」

 神奈子が推測する。

「へ~! 紫さんに認められるほどの万屋さんですか~! すごいですね!」

「う~ん……まだ活動し始めたばかりだから何とも言えないけど、多分ね」

「会うのが楽しみになって来ました!」

 早苗が目をキラキラさせているのを見て神奈子と諏訪子は必死に吹き出すのを堪える。早苗はそれに気づく事はなかった。



「うわ~お……3時間、迷ったぜ」

 結果的に遅刻した。現在、正午。お昼時だ。紫から貰ったスペルカード――永遠『リピートソング』がなければ何度も『速達』を宣言しなければいけなかったのでもっと時間がかかっていただろう。このスペルは文字通り、同じ曲をリピート出来るスペル。つまり、長時間同じコスプレのままでいられるのだ。だが、制限があり仕事用のスペルにしか使用できず、更に弾幕やスペルは使えなくなる。弾幕ごっこの時には使えないスペルだ。

 疲れた体に鞭を打って神社の境内に着陸。すぐにイヤホンを耳から抜いていつも通りの服装に戻った。

「すみませ~ん! 依頼を受けて来ました~!」

 大声で神社の中にいるであろう依頼主に向かって言う。よく神社を見てみるとどこかで見た事のある神社だった。

「は~い!」

 そう思っていると中からどこかで聞いた事のある声が聞こえた。

「うおっ!?」

 その刹那、ポケットに入れていたスキホが震える。紫からメールだ。移動中に地図についてメールを送っておいたのだ。

『八雲紫:わかったわ。後でデータ送るわね』

『音無響:さんきゅ』

 素早く返事を打ってスキホを閉じる。

「お待たせしまし……た」

 神社の方から声が聞こえたのでそちらを見てみるとこれまたどこかで見た事のある――。

「いやいや……待て」

 おかしい。こんな所にいるはずのない人だ。空を飛び過ぎて幻覚でも見ているのだろう。目をごしごしと擦ってもう一度、神社から出て来た人を見る。

「「……」」

 お互いがお互いの顔を見る。うん――早苗だ。

「「え、ええええええ!?」」

 早苗の方も驚いたらしく口をわなわなさせて目を見開いていた。

「お、お前……どうしてこんなところに?」

「そ、それはこちらのセリフです! どうして、響ちゃんが!?」

「いや……依頼で」

「え!? ま、まさか……あの万屋さんですか?」

「あ、ああ……」

 早苗の様子から見て依頼を出したのは違う人らしい。もし、早苗が出したのなら昨日、俺を見ているはずだ。

「「……」」

 数分間、沈黙が流れる。

「そ、そうだ! お昼、まだですよね?」

「え?」

「一緒に食べませんか?」

「……わかった」

 一先ず、お昼を食べる事にした。そうすればいくらかは落ち着くはずだと踏んだ結果だ。



「うん……落ち着けなんて無理だね」

「はい……もう、何が何やら……」

 早苗の手料理を食べ終えてお茶を啜るが全く味が分からなかった。

「まず、お前はどうして幻想郷に?」

「それは簡単です! 信仰の為です!」

「信仰?」

「はい! 外の世界ではもう神はほとんど信じられていませんので信仰を得るのはとても難しかったんです。その為、神社が……」

 少し視線を落とす早苗。外の世界でそれについて聞いた事があるのですぐに理解出来た。

「それでまだ神が信仰されている幻想郷に引っ越した、と」

「はい! おかげでたくさん信仰を得る事が出来ました! で? 響ちゃんは?」

「ああ、紫って知ってるか?」

「はい、紫さんですね」

「そいつの会社に入る事になって……で、万屋になった」

「……それだけですか?」

 困ったような表情で早苗が質問して来た。

「ああ、それだけだ」

「幻想郷に来た経緯とかないんですか? どうやって、紫さんと出会ったとか」

「いや~……口止めって奴?」

 話してしまえば外の世界から来ている事も話さなくてはいけなくなる。

「な、なるほど……あれ? 響ちゃんって弾幕ごっこ出来るんですか? 今回の依頼がそうですし」

「……まぁ、一応」

「じゃあ、やりましょう!」

 そう言いながら力強く立ち上がる早苗。

「はぁっ!?」

「せっかく来てくれたんです! やらなきゃ損ですよ!」

「損って何だよ!」

 必死にツッコミを入れるが早苗は無視し、俺の腕を掴んで神社の外へ出る。

(あ、あれ? 早苗ってこんな感じだっけ?)

 俺の中の早苗はドジで友達思いでもっと落ち着いていたはずだ。今は人の話すら聞いていない。

「さ、早苗?」

「はい? 何でしょう?」

 俺を引っ張りながら早苗が返事をする。

「ここで何かあった?」

 原因は幻想郷に来たからとしか思えなかった。

「いえ? 別に何もありませんでしたけど……」

 首を傾げながら答える早苗。

「いや、何かあったはずだ! 短期間でそんなに変わるのは普通におかしい!」

「響ちゃん……」

 俺の言葉を聞いた早苗は急に立ち止り、俺の方を向く。

「な、何だよ……」

「この幻想郷では常識に囚われてはいけません! 普通なんてないんです!」

 早苗は幻想郷色に染まってしまったようだ。

「ああ、あの頃の早苗が懐かしくなって来た……」

 急変した友人に眩暈を覚える。

「何言ってるんですか? ほら、構えてください!」

 気付けば早苗が俺から離れ、戦闘態勢に入っていた。

「……やるしかないみたいだな」

「スペルは6枚。3回被弾するもしくは墜落するか、全てのスペルがブレイクされた方の負けでいいですね?」

「ああ、もういいよ……なんでも」

「わかりました! では、早速!」

 笑顔でそう言うと早苗が空を飛ぶ。俺はPSPからイヤホンを伸ばし、耳に装着しながらそれを見ていた。

「あれ? 飛ばないんですか?」

 いつまで経っても飛ばない俺を見て質問して来る。

「いや、始まってから」

「? わかりました。じゃあ、始めっ!?」

 早苗はそう言うと大量の弾幕を放つ。ここからでも隙間はどこにもないのがわかった。回避不可能。だが、それらが届く前にPSPを操作し曲を再生した。すると、光り輝く1枚のお札が目の前に出現。それを乱暴に掴み取り、宣言する。

「少女が見た日本の原風景『東風谷 早苗』!」

 言い終わると同時に弾幕が地面を揺らした。



「きょ、響ちゃん?」

 私の弾幕が地面と衝突した拍子に砂埃が舞い、響ちゃんの様子が分からなかった。着弾する前に何かのスペルを唱えていた気がするがあまり自信はない。

「ど、どうしよう……」

 響ちゃんとの再会でテンションがおかしくなっていたのもある。でも、響ちゃんと弾幕ごっこが出来るのがただただ嬉しかったのだ。そのせいであんな鬼畜な弾幕を出してしまったのだが――。

「秘術『グレイソーマタージ』!」

「なっ!?」

 後ろから声が聞こえたと思ったら背中に弾が直撃。しかも、スペル名は私が使っているスペルだ。私は驚き、勢いよく振り返る。

「後、2発だな。俺のスペルはあと4枚」

 スペルを構えながら言うのは先ほどまで地面にいた響ちゃん。しかし、服装ががらりと変わっていた。

「ど、どうして……私と同じ服を?」

 そう、白い蛇の髪留め以外は私とまるっきり同じなのだ。蛇の髪留めは響ちゃんのかわいらしいポニーテールに巻き付いている。

「へ~……この服、お前だったのか。再会の衝撃が強すぎて気付かなかったぜ」

「え?」

「まぁ、いいや。早苗、本気で行くから本気で来い」

 響ちゃんはそう言いながら右手に持ったお祓い棒を私に向けて来る。その姿がとてもかっこいいと呑気に思った。
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 楼主| 发表于 2022-10-14 17:06:24 | 显示全部楼层
第25話 運命の歯車

「何でついて来るんだよ~」

「いいじゃないですか~。魔理沙さんについて行けば何か記事になりそうな事がありそうなんですよ」

 ニコニコしながら私の隣を飛ぶ射命丸。それを見て1つ、溜息を吐く。私の気持ちはこの空のように分厚い雲で覆われていた。

「遊びじゃないんだぞ?」

「じゃあ、何しに守矢神社まで?」

「昨日の宴会の事で早苗に話があんだよ」

 先ほど、ルーミアと鉢合わせし、落としてから昨日の事を聞いたのでその報告をしに行くのだ。

「昨日ですか? はて、何かありましたっけ?」

「質問するが昨日の料理、誰が作ってた?」

「そりゃあ、幹事が八雲紫だったのでその式神である八雲藍じゃ?」

「いや、違うな。藍はずっと紫の世話をしてた。珍しく紫が潰れたからな」

「なら、誰が?」

「新しい万屋だってさ。ルーミアはそいつの事、かなり気に入ってた。多分、食べ物でも貰ったんじゃないか?」

 因みに名前は『キョウ』。

(あいつじゃないよな……行方不明だって聞いてるし)

「もしかして、昨日の宴会って?」

「ああ、その万屋は紫の下で働いているらしいから宣伝目的だな。まぁ、紫がはりきりすぎて酔い潰れたから意味ないけど」

「人里とか博麗神社にあったあの木箱って依頼状を出す為の物なんですか?」

「そこまでは……紫に聞くのが一番、手っ取り早いだろ?」

「だって、あの妖怪どこにいるかわからないんですもん」

「確かに」

 射命丸と話している内に神社に到着する。

「ん?」

 守矢神社の境内で早苗が誰かと弾幕ごっこをしていた。こちらに背中を見せている早苗の対戦相手は早苗と同じ巫女服を着ていて髪は黒いポニーテールで白い蛇の髪飾りが飾られている。右手にお祓い棒を持って弾幕を躱し続けていた。他に早苗と違うは左腕に大きめのホルスターを付けている所だ。

「だ、誰なんでしょう? 早苗さんと同じ格好ですが……」

 射命丸も戸惑っている。

「少女綺想曲 ~ Dream Battle『博麗 霊夢』!」

 対戦相手は1枚のスペルを取り出し、宣言。すぐに霊夢の巫女服へ早変わりする。

「今度は霊夢さんですか!?」

 早苗が声を上げて驚く。射命丸は息を呑んでいる。

「射命丸……」

「は、はい!? 何でしょう?」

「あいつが万屋だ」

「あ、あの人が? で、ですがどうやって変身して?」

「能力だ」

「……その口調だとあの人を知っているようですね?」

「まぁな」

「もう! いい加減、説明してください! 奇跡『ミラクルフルーツ』!」

 早苗がスペルを唱え、高密度の弾幕が対戦相手を襲う。

「後でな! 夢符『二重結界』!」

 対戦相手もスペルを発動。2枚の結界が弾幕を弾き飛ばす。

「今度はこっちからだ!」

 懐から数枚のお札を取り出し、投擲する。

「嘘!? さっきまで通常弾、撃てなかったのに!?」

 早苗は体を捻ってお札を躱す。

「霊夢だとお札が使えるから撃てるんだよ!」

「霊夢さんだと……? ま、まさか!?」

 早苗は顔を歪め、振り返る。その先には先ほど躱したお札が早苗に向かって突進していた。

「やっぱり、ホーミングですか!?」

 悲鳴を上げながらお札から逃げる早苗。その後を追うお札。

「す、すごいです……」

「ああ、さすが霊夢」

 対戦相手は逃げ惑う早苗をぼーっと見ていた。声をかけるには絶好のチャンスだ。

「お~い! 響!」

 対戦相手――響のいる辺りまで高度を下げながら手を振った。



「お~い! 響!」

「ん?」

 涙目で逃げている早苗を見ていたら上から聞いた事のある声が俺の名を呼ぶ。

「ま、魔理沙?」

 振り返るとこちらに手を振りながら近づいて来る魔理沙と日ごろお世話になっているあの天狗の服を着た少女がいた。

「久しぶりだな~! 元気にしてたか?」

「あ、ああ……でも、何でここに?」

「ちょっと早苗に話があって。でも、それどころじゃないみたいだな」

 チラッとまだ逃げている早苗の方を見ながら魔理沙がそう言った。

「まぁな。少し離れていてくれ」

「おう! 射命丸、行くぞ!」

「は、はい!」

 射命丸と呼ばれた天狗と一緒に魔理沙は神社の方へ移動を始める。

「えいっ!」

 早苗がお札に向けて弾幕を放ち、相殺した。

「あ、危ないじゃないですか!?」

「いや、俺も知らなかったんだよ。それにお前はまだ1回、被弾出来るじゃねーか! 俺なんか後がないんだぞ!」

 俺はスペルを唱える事は出来るが通常弾を撃つ事は出来ないらしい。霊夢の場合、お札を投げればいいだけなので使えるようだが他の服は無理なので相手の弾幕をひたすら躱すしかない。スペルも枚数制限があるので無闇に使えない。俺の能力は弾幕ごっこと相性は最悪だったようだ。早苗は後、3枚。俺は後、2枚だ。

(時間もないし、霊夢のスペルは使わない方がいいみたいだな……次のコスプレに運命を委ねるか)

 お札を投げながら考える。

「秘法『九字刺し』!」

「くそっ!?」

 早苗がスペルを発動。ビームや小さな弾を躱す。その間に曲が終わる。

(頼む!)

 祈りながら目の前に出現したスペルを唱えた。



「U.N.オーエンは彼女なのか?『フランドール・スカーレット』!」



 その瞬間、テレビの電源を切ったように俺の意識が途切れた。







 誰も気付かなかった。このスペルが運命の歯車を動かし始めるきっかけになるとは――。







 響ちゃんがスペルを発動した。すると、また服が変わる。今度は赤いスカート。頭にはフリルの着いた帽子。背中には枯れ木に綺麗な結晶がくっついたような翼。

「あ、あれって!?」

 神社の方から魔理沙さんの声が聞こえた。いつの間にか観戦していたらしい。響ちゃんは俯いたまま動かない。しかし、私のスペルは時間切れになってしまい、当てる事は出来なかった。

「一気に決めます! 神徳『五穀豊穣ライスシャワー』!」

 スペルを唱え、小さな弾が響ちゃんを襲う。

「禁忌『レーヴァテイン』」

 響ちゃんも最後のスペルを発動し、炎の剣を手に持った。そして――。

「え?」

 響ちゃんが炎の剣を横に一振りすると私が出した小さな弾で出来た弾幕が四方八方に散らばる。急いで最後のスペルを唱えようとお札を手に持つがその隙に響ちゃんが剣を振り下ろして来る。

「ッ!?」

 それをガードする為にお祓い棒で受け止めたが向こうの勢いが強すぎて私の体は境内に叩き付けられてしまう。私の負けだ。

「いたた……」

 痛む背中を擦りながら体を起こす。

「早苗!? 逃げろ!?」

「え?」

 魔理沙さんが目の前に現れたと思ったら響ちゃんが再び、剣を振り降ろそうとしていた。

「恋符『マスタースパーク』!」

 ミニ八卦炉を響ちゃんに向けて魔理沙さんがスペルを宣言する。このスペルは八卦炉から極太レーザーを撃ち出す技。そのレーザーが撃ち出されようとした刹那――。

 ガキッ!

 響ちゃんの剣が八卦炉と衝突した。その拍子に八卦炉に亀裂が走る。

「まずっ!?」

 魔理沙さんが悲鳴を上げた瞬間、八卦炉が暴発。

「きゃあっ!?」「うおっ!?」「くっ!?」

 私、魔理沙さん、響ちゃんの3人が吹き飛ばされる。私と魔理沙さんは地面を何度がバウンドし重なるように地面に倒れ、響ちゃんは近くの木に背中から衝突。

「くっ……だ、大丈夫ですか?」

「あ、ああ……でも、八卦炉はもう駄目だな」

 立ち上がりながら地面を見ると八卦炉の残骸が散らばっている。

「何でこんな時に晴れてないんだよ……」

 剣を支えにして立ち上がった響ちゃんを睨みながら魔理沙さんが呟く。

「? 一体、どういう事ですか?」

「あいつは今、吸血鬼なんだ」

「きゅ、吸血鬼?」

「フランドール・スカーレット。レミリアの妹でつい最近まで地下に幽閉されていた」

「幽……閉」

「で、今のあいつの状況だけど――」

 魔理沙さんは一息置いてから言葉を発する。



「――フランの狂気に取り込まれて暴走してる」



 それを証明するように響ちゃんは虚ろな紅い目で私と魔理沙さんを睨み、剣を構えた。



ここからかなり、きつい表現が出てきます。

苦手な方はお気を付け下さい。





さぁ、異変の始まりだ
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